第61話

「――では、優斗君の家に宿泊は良いと言う事ですか?」

「まぁ、手付金も貰っている訳なので仕方なくって感じですか。ただ、一つ言っておきますが、俺はあくまでも何の力もない一般人ですので、本当に無理な時は無理なので」

「分かっています。強い霊力を持っている方の中でも、無自覚な方はいますから」


 何のフォローにもなっていない言葉を住良木がかけてくる。


「とりあえず一週間だけ、うちに泊めれば良いんですよね?」

「ああ。頼む」

「それでは自分は家に帰って掃除をしておくので」

「待ってくれ。車の用意をする」

「自分は電車で帰れますが? それに都を待たせているので」

「娘の着替えの用意などもあるから、車で行って欲しいのだが?」

「理事。桂木優斗君にも、私生活はあります。今回のことは、神社庁から無理強いしている内容ですので、彼の気持ちも汲み取る必要があります」

「……そうだったな。すまなかった。桂木君」

「いえ。それでは自分は家に帰り掃除をしておきますので、あとから来てください」

「ああ、頼むよ」


 話が一段落つき理事長室から出る。

 そして、その足で職員室に行くと金木先生に、都は勉強を教わっていた。


「都、待たせた」

「優斗?」


 俺が話しかけると勉強に集中していたのか、きょとんとした顔をしたあと、職員室の壁掛けの時計を見て「もう、こんな時間!?」と、素っ頓狂な声を上げていた。

 校庭を通ると、すでに日はすっかりと沈んでいた。

 

「人が居ない校舎とかグランドって、何だか怖いね」


 ギュッと俺の腕に抱き付いてくる都。

 大きな胸が腕に押し付けられてくる。


「そうだな」

「優斗、理事長さんと巫女さんからは、どんな話をされたの?」

「――いや、特に何もないな」

「本当? そのわりには話し合いに時間かかっていたよね?」

「そうだな……」

「話し合いの内容は内緒なの?」

「内緒というか大したことないって感じだな」


 まぁ異世界で冒険者をしていた頃には、商隊の護衛とかは時々あったからな。

 それの簡易版みたいなモノだし、都に伝える必要はないだろう。

 

「ふーん」

「何だよ……」

「優斗、私に隠し事しているよね?」

「俺が都に隠し事をする訳がないだろう?」

「絶対嘘! 私、優斗には詳しいからっ!」

「都が何を言っているのか訳が分からない」

「私が分かっていればいいの!」

「そうですか」


 俺は、仕方なく折れた。

それから、千葉駅に着いた頃には、もう時間は19時を過ぎていた。


「あっ! 優斗!」

「どうした?」


 千葉駅の改札を出てエスカレーターで正面から出た頃に、都が俺の肩を叩いてくる。


「ほら! あそこ! うちの車!」

「あー、何か高そうな車が停まっているな」

「今日、帰りが遅かったから、お母さんが車を手配してくれたの!」

「なるほど……。電車の中でスマフォを弄っていると思ったら、そういうことだったのか」

「うん! 優斗も一緒に乗るよね?」

「そうだな」


 山城綾子が来るのなら、早めに家に帰っておいた方がいい。

 都の家の車に乗ったあと、公団前まで送ってもらう。


「それじゃ、また明日な」

「うん! 優斗、またね!」


 笑顔で手を振りながら別れる。

 車が去っていくのを見送ったあと、すでに公団住宅前に白い高級車が停まっている事に気が付く。

 どうやら、俺が自宅に着く前に山城綾子は到着してしまっていたようだ。


「あら、優斗君。待っていたのよ?」

「随分と早いですね」

「急いできたもの」

「俺としては、ゆっくり来てくれた方が用意が出来たのですが」

「いいの! それより、妹さんがいるのよね? もちろん、紹介してくれるのよね?」

「それは当然」


 紹介せずに一週間同居とか、どうするのか知りたいものだ。


「それじゃ優斗君。これとコレと、これとこれだけど……」


 キャリーバッグ4個分の荷物。

 それが車のトランクから出てくる。

 俺の公団にはエレベーターという高尚なモノは存在していないのだが……、どう考えても俺が持っていく流れだよな……。

 だって、山城綾子の言動もそんな感じだし。

 俺は、キャリーバックを4個とも最上階まで運ぶ。

 もちろん2往復で――。


「優斗君って、体が細いわりには力あるわよね?」

「まぁ、男ですから」


 まぁ実際のところは身体強化をしているだけなんだがな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る