第60話

 授業も終わり、帰りの仕度を終えたところで昇降口へと向かう。


「ねえ、優斗。山城先輩は大丈夫だったの?」

「とくに怪我も何もないってさ」

「そう。それなら、よかったね」

「そうだな」


 都に答えながら昇降口へと向かい階段を降りていくと、巫女服の女性と目があった。

 嫌な予感しかしない。


「桂木優斗さん。少し、お話があるのですが、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」

「えっ? 優斗、知り合いなの?」


 俺の横を歩いていた都が、巫女服の女性と、俺の間に割って入ってくる。


「あの! 私の優斗に、どんな用事ですか?」


 俺は、何時の間に都のモノになったのか……。


「彼女さん?」

「はい。そうですけど? 優斗とは、どのような間柄なのですか?」

「特に親しい間柄ではありません。ただ……桂木優斗君に確認したい事と、お願いしたい事があって、不躾ながら会いにきました」

「俺に?」

「はい」

「優斗は、普通の高校生ですし、神社の方が優斗に何かお願いするような事は無いと思いますけど?」

「そうなの?」


 都の言葉に、首を傾げながら俺と都を交互に見てくる住良木(すめらぎ)鏡花(きょうか)。


「はい! 優斗のことは私が一番知っていますから! なので! 宗教の勧誘なら必要ないです!」

「彼女さんは、桂木君のことが本当に大事なのね」


 微笑みながら俺を見てくる住良木という女性。


「――で、俺に用事とは何でしょうか?」

「ここでは何だから、理事長室に来てもらえる?」

「はぁー、またですか」

「優斗、理事長室って?」

「あれだ。おそらくだが、山城先輩が倒れているのを発見して保健室に2回連れていったからだと思う。その時の事を聞きたいんじゃないのか?」

「そうなの?」

「たぶんな……」

「――では、話を聞いて頂けるということで?」

「話だけな」


 住良木と一緒に理事長室へ。


「桂木君と……、神楽坂さん? どうして、神楽坂さんが、一緒に?」


 職員室前を通り過ぎたところで、金木先生が話しかけてくる。

 

「優斗のことなので私も一緒に同席させて頂こうと思ってきました。そうよね! 優斗!」

「そ、そうだな……」


 まぁ、都を一人で帰らせるのもあれだからな。

 ただし、一緒にというのは……。


「都は、職員室で待っていてくれないか?」

「え? 優斗は、私が居たら邪魔なの?」

「邪魔じゃないが……」


 何て言ったものか。


「神楽坂さん。部外者を入れる訳にはいかないの」

「どうしてですか?」

「どうしてもなの。わかって」

「……はい」


金木先生の説得にもならない命令に近い言葉に渋々と頷く都。

「あれだ、すぐに話は終わると思うから待っていてくれ」

「う、うん……」

「金木先生、都のことをお願いします」

「あらら、熱いわね」

「冷やかさないでください」


 ほんと、この教師は何を考えているのか。

 俺は脱力しながら住良木と一緒に理事長室へ入る。

 

「桂木君。待っていたよ」


 俺を出迎えたのは理事長。

 ソファーに座ったあとは、俺の横には住良木は座る。

 テーブルを挟んで向かい側に座っているのは、理事長と山城綾子。

 山城綾子は、まだ気分が悪いのか俯いたまま。


「それで、自分に話とは?」

「それは私の方から説明致します」


 問いかけてきたのは、住良木という巫女服の女性。

 それに、理事長は頭を下げつつ「すまないな」と、呟く。


「いえ。今回のことは神社庁からも許可を得ておりますので……」

「そうですか、申し訳ない」

「そんな事はありません。私達の案を受け入れてくださって感謝しています。ですので、こちらがサポートできる事につきましては出来る範囲で行いたいと思っていますので……」


 おいおい、俺が知らない話をしているんだが?

 これは、どう考えても厄介ごとを押し付けられるパターンな気がするんだが……。


「桂木優斗君。お願いがあります」

「お願い?」

「はい、桂木優斗君。君は、意識しているかどうかは知りませんけど、かなりの力を持っていると、考えております」

「力?」

「はい。今日も、そうでしたが、先日も神域に近いモノが校舎内に展開されたのが確認できました。その際に、必ずと言っていいほど、貴方から強い霊力を感じたのですが……」

「気のせいだと思いますが?」

「――いえ。私の感知能力に間違いはありません。巫女は、神域での祭事が多いのですよ?」

「そうですか……」


 つまり、俺の波動結界は、神域に近いということか。

 まったく厄介だな。


「貴方は、自覚はないようですが、それだけの力があるのでしたら、邪なる者が近づいてくるのを阻害できると思っています。そこで、お願いがありまして、山城綾子さんと一緒にしばらく一緒に暮らして頂くことは可能でしょうか? 期間は、一週間ほどで構いませんので」

「一週間とは?」

「神社庁の方で、こちらの校舎内の敷地を調べて対策を講じるための期間と見て頂けばいいです」

「なるほど……。でも、それなら神社庁の方で――」

「残念ながら神社庁の方も現在は取り込み中でして……、それに――彼女の意向もありますので」

「彼女?」


 住良木の視線は、山城綾子に向けられる。

 俺の視線も誘導され、そこで山城綾子と視線が交差し――。


「優斗君。私と一緒は嫌?」

「嫌というか、どうして俺なんですか?」

「優斗君は、何度も助けてくれたし……それに……」


 そこで山城綾子が、俺に爪を見せてくる。

 それだけで俺は心の中で溜息をつく。

 つまり、俺の特殊な力を隠しておくから、何とか依頼を受けてほしいということか。


「何かあったのですか?」

「いえ。何も――。それよりも一週間だけ先輩を預かればいいんですか?」

「はい。お願いします」

「おほん、桂木優斗君」

「何でしょうか?」

「娘に手を出したらどうなるか分かっていると思うが? 娘を頼む」

「脅しているのか、頼みたいのかどっちかにしてもらえますか?」

「すまないな」

「まぁいいですけど……」

「それと、これは綾子の生活費になる」


 受け取った封筒。

 封筒の中には、帯で纏められている一万円札。

 つまり……、100万円。


「こんなに?」

「何か迷惑をかける可能性があるからな。その迷惑代も含まれている」

「なるほど……」


 封筒を受け取ったところで、山城綾子が「怖くはないのですか?」と、聞いてきた。


「別に、俺はオカルトみたいなモノは信じていないので」

「そうなのですか……」

「では、あとは神社庁の方から何人か人員を桂木優斗君の自宅付近に回しますので、何かあったら、伝えてください」

「わかりました」


 まぁ、厄介になることは無いと思うがな。




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