第二章 逆さ鳥居の神社編

第50話

 俺は、自分でも分からなかったが嫌な予感がしてしまう。


「――ったく」


 関係の無い人間のはずだ。

 俺には、この世界で守りたいと思う人間は多くない。

 むしろ誰よりも少ないと思う。

 その最たる例が都だ。

 俺は都を守るためなら何でもすると、彼女を失った時に決めた。

 もう、守る対象はいないと――、存在していないと分かっていたはずなのに。

 だから、守りたい対象を出会った時は歓喜した。

 だからこそ――、都と俺が知っている人間以外は、どうでもいいと思ったが……。


「何でだろうな」


 自分自身の行動に違和感を覚えながらも、身体強化を行う。

 正直、誰かの為に力を振るう意味なんて無いと思っているし、何より人は裏切る者だと言う事も認識している。

 それでも――、と……思ってしまう。

 そう――、彼女は――、都は、「優斗は――」と、言ったのだ。

 もう何て言ったかは覚えていない。


 ――だが、そうだったとしても……。


 女子生徒を見る。

 カバンを持っていれば体調が悪いということで、早退という事も理解できた。

 だが……、今、学校から出ていく女子生徒は、どう見ても手ぶらであり、何かしらの意図があって行動しているようには見えない。


 本当に俺の嫌な予感は、嫌なほどに良く当たる。

 それは、異世界で死線を何度も潜り抜けてきた俺にだけ身に付いたモノだ。

 そうではないと、何のスキルも魔法も持ち合わせていなかった俺が生きていけるほど、異世界は甘い世界ではなかったからな。


「仕方ないな。授業に遅れることになるが」


 身体強化をしたまま、手すりと、そして3メートルを超える転落防止用の金網を跳躍して飛び越えると、4階建ての校舎の屋上から飛び降りる。

 慣性に任せたまま、地面に着地したあとは、すぐに女子生徒の跡を追う。

 最初の時点で直線距離としては200メートルほど離れていた。

 だが、身体強化を行っている俺は、女子生徒との距離をすぐに縮めることが出来た。


「どこにいくんだ? この先には、建物のような物はないはずだが……」


 少なくとも、俺の知っている限り、高校の裏手には女子高生が向かうような建物は無かったはずだ。

 何せ原生林を切り開いて作られた高校って話だからな。

 そう、一人考えながら近づく。

 すると女子生徒の特長的な黒く綺麗な黒髪がハッキリと見えてくる。

 さらに桜の花びらのバレッタを髪を纏めていた。

 そこで、俺はふと思い出す。

 見た事がある女子高生だということに。

 俺の記憶が確かなら入学当時に生徒会長が挨拶をした時に見た事がある。


「山城綾子……だったか? たしか、そんな名前だったな。それにしても……」


 ふらついた足取り。

 そこには何かしらの意志力を感じとることは出来ない。

 つまり……、何かに操られているということだ。


「まったく……、ここは地球なんだがな……」


 どうして、こんな不可解な出来事に何度も遭遇するのか。

 エレベーターの怪異の時といい、あまりにも出来過ぎている気がするが……。

それよりも今が問題か。


「そういえば異世界でも、幽霊などの不可思議な魔物に操られている人間というのは存在したな」


 そう呟きながら俺は、意識を集中させていく。

 すると異世界で感じたような――、それと同じような感覚を、目の前で歩く女子生徒から、彼女とは異なる気配を感じとることが出来た。

 そこで、ふと何かが俺を見つめて来ていた事に気が付く。


「なんだ?」


 目を凝らす。

 すると――、突然、木の枝が幾つも俺の方へと飛来してくる。

 そこには、強烈な殺気や怒りまでもが含まれている。


「――ちっ! 明らかに俺を敵視しているのか!?」


 俺は、舌打ちしながら、最初に飛来してきた長さ60センチほどの枝を掴むと次々に飛んでくる枝を、手にした枝で打ち払う。

 

「一体、何が――」


 何も見えなかった。

 少なくとも肉体強化だけでは見えないモノ。

 すると目の前を夢遊病のように歩いていた山城綾子という女子生徒の体が、フラリと揺れる。

 そして――、糸が切れた人形のように力が抜けていく。


「くそっ!」


 地面を踏みしめ跳躍――、一足飛びに女子高生に近づき、倒れかけていた山城綾子の体を抱きとめると同時に周囲の気配を探る。


「気配が消えた? ……逃げたのか……」


 どうやら、第三者には見られたくないという思惑があるようだが……。


「ここは地球で日本だよな? まったく……エレベーターの怪異の件といい、一体全体、どうなっているんだ……」


 思わず溜息が出た。



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