第46話

「優斗は昔から空気読めてないと思うけど……」


 酷い言いがかりだ!

 だが、これ以上は喧嘩になるかも知れないからな。


「とりあえず帰る」

 

 立ち上がる。

 するとガチャリを開錠の音が聞こえてくると共に部屋に入ってくる都の母親。


「優斗君。はい! これ渡しておくから!」


 渡されたのは寝間着。

 どうして寝間着なんかを……。


「あの、自分は、そろそろお暇しようかと」

「優斗君」

「何でしょうか?」

「娘が、最近ね……一人じゃ眠れないみたいなの」


 どういう意味だ?

 俺は思わず首を傾げる。


「何か病気か何かで?」

「主治医の話だと、優斗君と一緒に寝れば軽減されるかも知れないって言っていたの」

「どんな限定的な病ですか。そんな病気聞いたことないんですが?」

「優斗君」

「何でしょうか?」

「女の子を守るのも男の子の役目だとは思わない?」

「それは……」

「だよね! それじゃ、今日は、都の抱き枕になってあげてね! 優斗君が、最近は遠くに行ったみたいに感じて娘は、よく眠れていなかったの! それじゃ、お休みなさいね」


 バタンとドアを閉め――、さらにガチャリと御叮嚀に施錠までしていく都の母親。

 

「都」

「ど、どどどど、どうしたのかな?」

「どうして、お前が動揺している。それよりも本当に寝付けないのか?」


 コクリと頷いてくる都。

 さっきの都の母親が呟いた『俺が遠くに行ったみたいに感じる』という言葉。

 それには、俺には思い当たる節が多すぎて反論できなかった。

 何せ、異世界で力を振るうたびに、力を得るたびに、記憶が抜け落ちていったからな。

 正直、記憶の欠損すら、仲間に指摘されるまで気が付かなかった。

 だから、いま現在の俺は、都が知っている昔の俺と、どのくらい差異があるかなんて比較もできない。


「う、うん……」

「だが、俺は男だぞ? 一緒に寝ても大丈夫なのか?」

「優斗がいい……優斗がいいの!」


 意を決したかのように上目遣いで俺を見てくる都。


「そ、そうか……」


 ま、まぁ……、原因が俺にあるのなら都の願いなら聞いてもいいか。

 

「分かった。とりあえず妹に電話するから」


 電話をかけると妹からは「朝帰りなの?」と、揶揄され「がんばって!」と冷たく言い放たれた。

 何故か知らないが、妹は怒っているような気がしたんだが……。


「とりあえず妹からの許可はとった」

「そう……。ほら、優斗」


 ベッドの上で横になっている都は、ダブルベットの――、自身の真横をポンポンと叩き、俺に寝るようにと催促してくる。

 しかも頬どころか、耳まで顔が真っ赤。

 ベッドで横になると、横でジーッと俺を見てくる都。


「ねえ、優斗」

「ん?」

「前も一緒に寝たことあるよね」

「そうか? 小さい頃のことだろ」

「それはそうだけど……。ねえ、優斗」

「――ん?」


 都は体を寄せてきて抱き付いてくる。

 そして――、しばらくして寝息が聞こえてきた。

 最速の寝付きの速さ。

 

「まぁ、これはこれでいいのかもな」


 完全に抱き枕になった俺。

 そのまま夜が明けるまで、都の抱き枕になった。






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