第45話

 案内された都の私室に入る。

 私室とは言えないほど広い室内。

 広さは20畳ほどはあるだろうか。


「ここが、今の都の部屋か?」

「えっと勉強部屋?」

「ベッドもあるのにか?」

「優斗、疲れたら仮眠をとるのも勉強を効率的にするには必要なんだよ?」

「なるほどな」


 室内には、本棚が幾つもあり小難しい内容の参考書が並んでいる。

 その数は数冊ではなく数十……下手をしたら100冊を超えているかも知れない。


「俺、国語辞典だけで10冊も違うのが並んでいるのを見るのなんて初めてなんだが……」

「こっちに英語の辞書もあるよ」

「そ、そうか……。そういえば、学校からの宿題の用紙はどこにあるんだ?」

「えっとね……」


 都は、呟きながら俺達が入ってきたドアに向かう。

 そして、すぐにガチャリと施錠するような音が聞こえてきた。


「都?」

「ごめんね。優斗」

「何故に謝る?」

「じつはね、学校から宿題なんて出てないの」

「――ん? どういうことだ? 純也が嘘をついたということか?」

「えっとね……。たぶん、純也は気を利かせてくれたと思うの」

「気を利かせて?」


 話しの意図が読み取れないのだが……。


 俺は、視線を都の方へと向ける。

 そんな彼女は、どこか思いつめたような表情をしていて――。

 本棚から幾つかの本を取り出し、俺の前へ並べていく。


「これ、お父さんの秘蔵品だから……」

「秘蔵品?」


 何の秘蔵品だ? と、考えながら本を開ける。

 すると本の中は綺麗にくり抜かれていて――、DVDが数枚入っている。


「メイドの旦那は何時も眠れない? ――って、これエロ系のDVDじゃないのか!?」


 俺の言葉にコクリと顔を真っ赤にして頷いてくる都。


「お母さんに相談したら、男の人には、こういうモノを渡せば元気になれるって、優斗は最近、ずっと思い悩んでいたでしょ? だから……お父さんには内緒ね」


 静香さん、一体どういう風に娘を育てているんですか? と、俺は心の中で突っ込みながらも泣きそうな目で見てきている都の頭に手を置く。

 そして胸中では、都のお父さんの秘蔵コレクションが娘の手に渡ったことに関しても同情する。

 だが、これを受け取る訳にはいかない。


「俺には必要ない」

「――え? そ、それって……、私が必要ってことなの!?」

「そうじゃない」

「つまり純也が必要なの?」


 何故か体を震わせて、少し俺から距離をとる都。


「違うからなっ! 誤解だからなっ!」


 まったく、どうして異世界から戻ってきてまで、こんなやり取りをしないといけないのか……正直言って、頭が痛い。


「――って……つまり」

「うん」

「優斗は……」

「ん?」

「女の子が好きってこと?」

「まぁ、一般的な成人男性ならそうだと思うが? 生物学的観点から見ても、そうだろう?」

「うん……」


 何故に、そこで残念そうな顔をするのか。


「――ということは……、優斗は私が好きなの?」

「とりあえずだ。こういうDVDはいらないからな」

「うん」


 とりあえず、この分だと純也にも相談したのだろう。

 そうじゃないとタイミングが合いすぎている。

 そして、どうしてドアの鍵を閉めたのか? と、言う疑問はあるが、それは聞かない方がいいだろう。


「都、俺はとりあえず帰るから」

「泊っていけばいいと思うけど……」

「さすがに妹が待っているからな」

「そう……」

「大丈夫か?」

「え?」

「何だか都は、ここ最近は情緒不安定に見えるんだが……」

「誰のせいだと思っているの?」

「誰のせいだ?」

「優斗のせいだからねっ!」


 俺のせいとか理不尽すぎる。

 まぁ、言えないことはたくさんあるし、隠し事は多々あるが――、それは絶対に言えないことだからな。


「都」


 俺は、都の肩を両手で掴む。


「え? ――え? ――な、何? ――と、ととと、突然っ……どうしたの? ゆうと……」


 何故か顔を真っ赤にする都。


「お前、疲れていると思うから少し休んだ方がいい。今週いっぱいは学校が休みなんだからしっかりと休んでおけ」

「優斗……」

「都」

「優斗って、そう言う人だって知っていたけど、もう少し空気を読んでほしいかな」

「俺は誰よりも空気が読める男だが?」


 まったく、俺ほど周りの空気に合わせられる人間なんていないと思うぞ。






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