第39話

「むーっ」

「な、何かあったのか?」


 俺の言葉に機嫌を悪くしたのか、ジッと俺を見てきていた都は顔を背けると俺の腕を取り歩きだしてしまう。

 仕方なく、都に合わせて歩くことにする。


「ねえ。優斗」

「ん?」

「優斗って、少しというか……」


 そこまで都は呟いたところで、黙ってしまう。

 一体、何を聞きたいのか……。

 ただ、雰囲気は宜しいとは言えないので俺の方としても何か話題を振った方がいいだろう。


「都」

「何?」

「親父さんとかお袋さんとか大丈夫なのか? ほら、警察と色々とあっただろう?」

「うん。優斗に電話した通り、もう大丈夫」

「そうか。それなら良かった」


 あとは学校の方だが、特に問題が無かったのなら否定するだけで問題ないだろう。

 そもそも、すぐに釈放されて、警察が槍玉に上がっている現状としては、そちらの方が注目されるからな。

 千葉駅前から、信号を渡った場所にある巨大ショッピングモールへと都に連れて行かれる。


「どうして、器とかを見るんだ?」


 都に案内されたのは、郷土品などをイベントで取り扱っている店。

 箸やお茶碗、急須など高そうというか――。


「高すぎる……」


 箸一善で1万円近くとかどうなっているんだ。

 うちで使っている箸とか、200円くらいだぞ?


「都、ここに来たって事は、これらを購入するってことか?」


 俺は一善で1万円以上する箸を見たあと、都の方を見るが――、都は箸を真剣に見ている。

 どう見ても購入する人間の目だ。


「うん。そうだけど? ほら! お母さんの誕生日だから!」

「そうなのか?」

「うん。来週は、お母さんの誕生日だから、それで」


 そういえば、ずっと昔に教えてもらったことがあったな。

 

「優斗は、どれがいいと思う?」

「そうは言われてもな……」


 一応、王宮で暮らしていたこともあるが、箸は無かったからな。

 そもそも、俺にモノを見る力はないし……。

 俺はショップの中を見ていくが――。


「ん?」


 目についたモノを手に取る。

 それは銀製のナイフ。

 

「これは、結構いいものだな」


 山崎が持ってきた軍用ナイフよりも、作りはシッカリとしている。

 しかも銀で作られていると言う事もあり、戦場では役に立つだろう――、長さが60センチくらいあればだが。


「優斗、何かいいものでもあったの?」

「ああ。このナイフとかは良いモノだと思ったんだが……」


 そう都に言葉を返しながら、価格を見て思わず吹き出しそうになる。

 価格が38000円という、凄まじい金額。


「わあ。高いね!」

「高すぎる。俺の月の小遣いの10倍以上だぞ」

「優斗って、お小遣い増えてないの?」

「全然増えていない」

「そうなんだ……」


 俺の小遣いは中学3年の時から変わらない3000円。

 まぁ、パソコンとかは親が用意してくれたから、特に問題はないと思っていたが。


「それにしても都はお金を持っているんだな」


 1万円以上する箸を購入している都を見ながら感心する。


「だって、アルバイトしているから」

「アルバイト?」


 俺の独り言を聞いていたのか、会計を済ませた都が答えてくる。


「うん。土日は、ウェイトレスしているから」

「ウェイトレス?」

「うん。高校入学してから始めたの。あれ? 前に、優斗に言ったよね?」


 やばいな。

 昔のこと過ぎて何も覚えてないぞ……。


「優斗も一緒にアルバイトする?」

「ウェイトレスのアルバイトか?」

「うーん。たぶん、優斗がウェイトレスの恰好をしても需要はないと思うけど?」

「どういう恰好をさせるつもりだ」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る