第38話
「お兄ちゃん、何だか困っていたみたいだけど、どうしたの?」
俺が買って来たお米を研ぎながら、話しかけてくる妹。
ただ、その目は興味津々なのか、とても輝いている。
「お前には、関係ないだろう」
「関係あるもん! それじゃ、都さんに電話して聞くからいいもの!」
「わかった。話すから!」
「うん!」
お米を研ぎ終わったのか炊飯器のボタンを押したあと、俺の方へと視線を向けてくる妹。
「――で?」
「で? とは?」
仕方なく、俺はリビングのソファーへと腰を下ろしテレビをつける。
そして、そんな俺の横に座って見上げてくる妹。
「早くー!」
「はぁー。買い物に付き合ってって誘われただけだよ」
「買い物に!?」
「ああ。それだけ」
「……それって……」
何か考え事があるのか、しばらく黙ったあと話しかけてくる妹。
「何かあるのか?」
「ううん。でも、お兄ちゃんがね――」
「何故に含みのあるような言い方をするんだ。俺じゃ荷物持ちは無理だと言いたいのか?」
「――え?」
呆ける妹。
どうして、そこで固まる?
「ま、まさか……お兄ちゃん……鈍感なの?」
「何を馬鹿な事を言っている。これでも、俺は気配を察することにかけては敏感だぞ?」
特に魔物の殺気に関してはだが!
それどころか隠蔽スキルを持つ魔物や暗殺者の気配すら察知することが可能だ。
「はぁー」
「何で、そこで溜息をつくんだ?」
「ううん。お兄ちゃんは、昔からそうだったなって……。ほら! 目の前に、美少女もいるし!」
「美少女?」
俺は部屋の中を見渡す。
そんな奴は、どこにもいないんだが……。
「相も変わらず胡桃は、変な事ばかり言っているな。美少女というのは二次元にしかいないんだぞ?」
「ここに! ここに! いるよね!?」
「何故に、胡桃は自分のことを指差しているんだ?」
「ほら! 一応、私は結構! に・ん・き! なんだよ! 学校ではラブレターもらったりするし!」
「そうか。妄想はほどほどにな」
「妄想じゃないもの! お兄ちゃんの馬鹿―!」
何故か知らないが、妹が部屋に入っていき扉を強い勢いで閉めてしまった。
たしかに妹は可愛いが、それは俺が兄だからという主観が入っているからだ。
「そういえば……」
俺のパーティメンバーの中に居た奴も同じことを言っていたな。
救った村の生き残りだったリコリッタという魔法使いの奴も……。
「はぁ、女ってのは分からないな」
30年以上、異世界で生きてきたというのに、女心というのはサッパリだ。
第一、 ストレートに言ってくれた方が、まだ分かる。
しばらくして、機嫌が直らない妹の為にプリンをなけなしのお小遣いで購入し、甘いモノで何とか妹の機嫌を取り直す事ができた。
今度から冷蔵庫に買い置きをしておくとしようか。
翌日、俺は都との約束時間に千葉駅前へと向かう。
時間としては丁度だろう。
駅前の、モノレールへと上がる会談前に近づくと、すでに都が待っていたのが見えた。
集合時間の5分前だと言うのに……。
「都、待たせたな」
「――あ、優斗? べ、別に、待ってないから! 今来たばかりから!」
「そ、そうか……」
話しかけたら全力で、すごい勢いで巻くし立ててきたぞ?
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