第35話
「やっぱり日本食はいいな……」
朝一番に、俺は味噌汁とお米という『日本人に生まれてきてよかった!』と、言う伝統食に舌鼓を打つ。
「いつも食べてるじゃん」
異世界で30年以上、パンやスープばかりで、あとは自分で食事を作って故郷である日本の味に似せはしていたモノの、それは似せただけで本物ではなかった。
つまり似て非なるモノ。
やっぱり量産で作られた味噌と言えど、素人の俺が異世界で作った味噌とは雲泥の差!
「うまいなー」
「お兄ちゃん。早く食べないと学校に間に合わな……、あっ! ――そ、そういえば今週は学校お休みだって!」
「そうなのか?」
「うん。昨日の夜に純也さんから電話があったよ」
「そっか」
「それなら、ゆっくりしていても問題ないな」
卵焼きと焼き魚。
それらにかけるのは醤油。
そう! 異世界には、絶対に! 断じて! 存在していなかった日本人の命である魂である醤油。
夢に見た調味料だ!
「やっぱり、日本人は醤油だよな!」
「もうー。お兄ちゃん、少し静かにご飯食べられないの?」
「まったく、我が妹は風情というものが感じられないな」
豆腐の味噌汁を啜りながら、俺は溜息をつく。
もちろん、そんな俺を見て妹様は、呆れた表情をしたあと、テレビのリモコンを手に取るとテレビを点ける。
もちろん、その際に「お兄ちゃんよりもテレビがいいよね」と毒舌を吐いてきたのは、俺はスルーしておく。
「あれ? お兄ちゃん!」
「ん? どうした?」
「テレビ見て! テレビ!」
「テレビ?」
「ほう。日本各地で行方不明になっていた大勢の人間が、各都道府県の警察署内のエレベーターで発見されたのか」
「これって、どういうことなのかな?」
「さあな?」
俺は肩を竦める。
どうやら伊邪那美が、結んだ現世との縁――、それはキチンと機能を果たしていたらしい。
腐っても黄泉の女神。
その力は健在といったところか。
「――でも、これって……どうなるのかな?」
「どうなるって?」
「だってエレベーター業者が問題あるって任意同行で事情聴取されていたんだよね? それが警察署のエレベーターの中から見つかるなんて」
「どうにもならないんじゃないのか? 何せ、現物が警察署のエレベーターの中から出てきたんだからな」
まぁ警察も今までは蚊帳の外と言った感じで、捜査をしていたが今回は警察署内部――、しかも全ての都道府県の警察署のエレベーターから失踪していた人間が発見されたのだ。
しかも同時に!
警察としても、どう対応していいのか困っているところだろう。
――ただ一つ言える事と言えば!
都の実家に掛けられた疑惑は払拭されたと言う事だ。
何せ、全ての都道府県の警察署のエレベーターから同時に神隠しになっていた人間が無傷で見つかった訳だからな。
警察も自身が批判の対象にはなりたくはないだろう。
おそらくは――、時間をかけて世間の監視が緩んだところで、お茶を濁すというのがベターなところか。
「ねえ。お兄ちゃん」
「ん?」
「これって、都ちゃんのところは大丈夫なんだよね?」
「そうだな。さすがに警察も自分達の懐から出てきた事に関してまでは無茶ぶりは出来ないだろうし」
「うん」
それから1時間後、テレビでは『エレベーターの怪異』の特番が急遽組まれオカルトにまで言及していたが、意識を取り戻した失踪者達は、エレベーターに残ったあとの記憶を全員無くしていて、何も証言は得られないとワイドショーでは流れていた。
どうやら、俺が行った記憶操作は問題なく上手くいったらしい。
「――さて、飯でも食うか」
「まだ食べるの?」
「まだまだ食べるぞ!」
「それじゃ、お兄ちゃん! お米を後で買ってきてね!」
「――お、おう」
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