第36話

「――で! 何で、自分を呼ぶんですかね?」

「ほら、生死の境を共にした仲間だろう?」


 俺は、お米を買いに行くために早速、足じゃなくて黄泉の国に一緒に行った戦友である山崎に車を出してもらい近くのスーパーへ買い物にきていた。


「また、そんなことを言って……。さっき、ようやく淡路から戻ってきたばかりだと言うのに……」

「つまり、暇だということか?」

「一睡もしていないって事ですよ!」

「なるほど……」

「ほんと、睡眠不足で車の運転は事故の元だって言うのに……」


 俺はカートを押しながら商品を籠に入れ、10キロのお米もカートに乗せる。

 そんな俺の横で、「眠い」と言いつつ、山崎もビールを自身が手に持つ籠の中に入れていくのを俺は見逃さない。


「それじゃ、家に帰ってから一杯してから寝るってことか?」

「まぁ、それもありますけど……記事も書かないといけないので……」

「エレベーターの怪異の事か?」

「はい。全部ではありませんが、そこはかとなくみたいな感じで」

「だろうな」


 伊邪那美に会ったとか、エレベーターの怪異の核心の部分なんて書く訳にはいかないというか、書いたところで神話の神に会ったという体験談なんて戯言にしか聞こえないだろうからな。

 レジで支払いを互いに済ませたあと、公団住宅の入り口まで山崎に送ってもらい別れる。

 荷物を両手で抱えて公団住宅の階段前に近づいたところで、見知った姿を見かける。


「純也?」

「――あ、優斗! お前、どこに行っていたんだ? 夜に、胡桃ちゃんから電話があって泣きそうな声で、俺の家に来ていないか確認の電話があったんだぞ!」

「あー。ちょっと海を見に行っていたんだが……」

「海に?」


 俺は頷く。


「お前が? 一人で?」

「何だよ……」


 何かマズイことでも言ったか?

 純也が何か物事を深く考えるような仕草を見せたあと、頭を振るう。


「――いや。何でもない」

「そうか。それよりも……」


 少し気になったことがあった。

 純也に電話していると言う事が本当なら、妹は――。


「もしかして都の家にも電話していたりしないよな?」

「いの一番に電話したみたいだ。胡桃ちゃんから電話が来る前に都から電話があったからなあ」

「そ、そうか……」


 ――と、言う事は都も俺に関して何かしら思うところがあったということになる。

 妹が、心配性だと言うのは分かるが……。


「まぁ、胡桃ちゃんに出かける時に何も言わずに出て行ったお前が悪い」

「正論だな」

「ああ。都も心配していたから電話した方がいいぞ?」

「そうだなー」


 お小言が飛んできそうで、あまり電話はしたくないというのが本音だ。

 あとは、都の家も昨日までは報道陣に囲まれていて大変だったのだから、そんな中で迷惑を掛けたというのも問題だろう。


「お前、電話しないつもりか?」

「何を言っているんだ? キチンと電話するに決まっているだろう。それに妹から、電話がいっている可能性だってあるし……」


 まぁ、純也が家の前まで来て確認してきているだから、妹が電話する可能性は限りなく低いか。


「――ん、じゃ! とりあえず都には早く電話しておけよ! すっげえ心配していたからな」

「分かった、分かった」


 俺の肩を軽く叩き、公団住宅の入り口の方へと去っていく純也。


「おい! 寄っていかないのか?」

「今日は止めておくわ! それに買い物も頼まれていたんだろ?」


 そのまま、純也は公団住宅の入り口から出ていく。

 その後ろ姿を見送ったあと、俺は帰宅する。


「――で! お兄ちゃんが戻ってきたの!」

「ん? 誰と電話しているんだ?」

「え? 都さんだけど?」

「……純也へは?」

「都さんとの電話が長引いて、電話するの忘れちゃた!」

「はぁー」


 我が妹ながら、抜けているというか報告はキチンとしろよな。





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