第34話

 公団前にタクシーが到着し、なけなしの小遣いで足代としてタクシー代を払ったあと、俺は路地を歩き公団前に到着する。

 

「――ん?」


 俺は思わず首を傾げる。


「どうしてパトカーが公団住宅の入り口に?」


 公団住宅は、基本的にフェンスで囲まれていることが多く出入り口は限定される。

 そのために、車両は出入り口付近を陣取っているのだろう。

 問題は、どうしてパトカーが3台も、俺が住んでいる公団住宅近くの出入り口に停まっているのか……。


「まさか……」


 思わず呟いてしまう。

 もしかしたら、公安の連中を気絶させた犯人を追って、ここまで来たのかも知れないと。

 たしかに日本の警察は優秀だからな。

 一応、タワーマンションと、その近辺のカメラは全て破壊しておいたが、それでも、俺の正体が国にバレてしまったのかも……。


 俺は気配を消しながら野次馬が集まる中を縫うように歩き――。


「それで、お兄さんが失踪したのは何時頃なのかな?」

「わかんないです……。でも、深夜に起きたら居なくて……買い物に行ったと思ったら……ずっと戻ってこないから……」

「そうか。お兄さんは顔写真とかあるかな?」


 何か、俺が予想していた事と違う光景が目の前に広がっている。

 何と声をかけていいのか、どうやって出ていけばいいのか迷っていたところで、妹と視線が合う俺。

 そして……、胡桃の大きな瞳が潤みポロポロと涙を流しながら飛び掛かるように俺に抱きついてきた。


「胡桃……」

「……お、お兄ちゃん……。……い、一体……、一体、どこに行っていたの? ――わ、私! 私! すごい心配したんだらっ! お兄ちゃんも行方不明になっちゃたんじゃないかなって……」

「すまない。少し、海を見に行っていたら気が付いたら寝ていたんだ」

「ぐすん……。う、海に?」

「ああ。それと、ちょっと周りの目を気にしてくれ」


 さっきまで妹に親身になって対応してくれていた警察の人とかは困ったような表情をしているし、公団に住む連中とかは、完全に俺達を面白いネタを見るような目で見てきている。


「――あっ! ごめんなさい。――で、でも! 私! すごい心配したんだからっ! エレベーターで人が消えるって事件あったから……」

「そうだな」


 俺は妹の頭を撫でながら、警察へと視線を向ける。


「えっと、桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)さんで、よろしいですか? こちらの胡桃さんから、お兄さんが行方不明になったと連絡がありまして」

「はい。本人です。それよりも珍しいですね。わざわざ、来るなんて」

「時期が時期ですので」

「なるほど」


 それだけで話が通じる。

 おそらくエレベーターの怪異で、人が行方不明になっている件についてということだろう。

 そう考えれば警察が迅速に動いたのは説明がつく。


「――では、行方不明と言う事になっていた桂木優斗さんが戻ってきたということですので、これで我々は――」


 警察は、妹から何らかのサインを書類に貰ったあと、すぐに帰っていった。

 どうやら、これで問題は解決したな。


「お・に・い・ち・ゃ・ん」

「お、おう……」


 どうやら、我が妹は、かなり大激怒の模様。


「きちんと話を聞かせてよね!」

「分かった、わかった」


 まったく、我が妹ながら、魔王よりも威圧感があるな。














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