第26話
「それよりも生物って何ですか? ――と、言うよりも……」
暗闇に向けた銃口を動かさず、そして視線も銃口の先に向けたまま呟く山崎。
俺が答えないと理解しているはずなのにな。
「どうして、桂木さんは、こんな異常な状況で、そんなに冷静なままで居られるんですか?」
「それは、あなたと同じだと思うが?」
「――いやいや。自分は、もう必死ですよ。貴方が、信じられないほど普通にしているからパニックになっていないだけで」
「そんなものか?」
「ええ。気が付いてないんですか?」
「――と、言われてもな……」
肩を竦めたところで、唐突にマズルフラッシュが暗闇の中に瞬く。
それと同時に、爆発音と一泊遅れて甲高い音が空洞――、ドーム状に掘られた空洞内に響き渡る。
「どうやら、普通に倒せるみたいですね」
そう、山崎は呟くと笑みを浮かべた。
獰猛な笑みを。
銃弾は、まだヘッドライトの光が届かない暗闇に吸い込まれていくようにしか一般人には見えないだろう。
――だが……。
「手応えがあったということか」
「まぁ、そうですね。傭兵をしていれば、撃った弾が当たったどうかは何となくですが分かるようになりますので」
「なるほど」
視覚を強化している俺から見ても山崎の拳銃の腕は、素人の俺から見ても相当なモノだというのが分かる。
何せ、全ての銃弾が腹の膨れた黒色の1メートル程度の子供らしき存在の頭を撃ち抜いていくのだから。
「それにしても、どういう場所なんだ? ここは……」
「さあ? それは分かりませんが――」
そこで、トリガーを引く手を止めた山崎。
「あれは……」
目を凝らす山崎。
「何か知っているのか?」
「あれは、オカルト雑誌で見たことがありますが……」
思案するような表情で何事かを考えている。
「とりあえず、あれが何か思い出してくれ。ここを攻略する糸口になるかも知れないからな」
俺は、片手で掴んでいたデザートイーグルの銃口をドーム状の空洞から伸びる暗闇の通路へと向ける。
そして生体電流を増幅し銃口に高電圧として流し込み、銃口に磁界を作りだし、トリガーを引く。
爆発音と共に薬莢が薬室から空中へと放り出される。
銃弾は磁界で加速され光の帯を纏い暗闇の通路から出てきた魔物だけでなく通路から此方へと向かってきていた数十の魔物を一瞬にして消し飛ばす。
「桂木さん、ここは黄泉では?」
「黄泉?」
「はい。あれと同じような妖怪を――餓鬼が書かれた掛け軸を以前に取材で見た事があります」
「餓鬼か……」
そういうモノに関して俺は詳しくは知らないが、オカルト雑誌も取り扱っている山崎の証言なら正確度は別として信頼度は高いだろう。
それが正しいかどうかは別として。
「しかし、どうして餓鬼が出てくる? ――いや、そもそも」
「桂木さん。黄泉平坂というのは知っていますか?」
「ああ。話しだけは聞いた事があるが……」
「餓鬼が登場するのは、黄泉平坂が多いのは日本史を読めば分かると思いますが、おそらくですが、黄泉平坂が関わっていると考えれば自分達が落ちてきた場所は、おそらくですが、井戸に見立てた建造物なのでは?」
「井戸に見立てた?」
「あくまでも推測ですが……」
「そうなると……、この場所の奥にいるのは、『伊邪那美命(いざなみのみこと)』と言う事になるが」
さすがに神が人間に直接関与してくるとは俺には思えない。
異世界の女神ですら代理を立てたくらいなのだから。
「ソレは分かりませんが、用心をした方がいいかも知れませんね」
「そうだな」
数発、レールガンを通路にぶちこんで餓鬼を殲滅したあと、空洞から唯一伸びる通路を――、餓鬼が通ってきた通路を俺達は進む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます