第25話
「――ちっ!」
思わず舌打ちしながら、俺は自分達が落下する方へと視線を向ける。
水滴の落ちる速度は、明らかに俺達の落下速度よりも落ちてるよは言え、地面に激突したあとは、即座に降り注いでくるのは火を見るよりも明らか。
「山崎っ! 手を伸ばせ!」
「――え?」
「いいから! 死にたくなければ手を伸ばせ!」
「何を言って――。これだけ落下していたら、どちらにしても助からないということくらいは……」
「ずいぶんと潔いんだな」
「そりゃ、もう無理な時は無理だって諦めますよ」
「とにかく! 御託はいい! 手を伸ばせ! 死にたくないなら!」
「助かる方法があるんですか?」
「何とかする!」
すでに落下速度と滞空時間から1000メートル以上は落下しているだろう。
普通の人間なら、絶望というよりも諦めが来るのは理解できる。
だが――、俺は諦めが良い方ではない。
「桂木さん……、結構、あれですね。諦めが――」
「ああ、俺は諦めが悪いほうだからな」
そうじゃなければ異世界で仇を打つために生きることなんて出来なかった。
「分かりましたよ」
山崎の腕を掴む。
それと同時に俺は【空間】を蹴る。
斜め下へと高速落下していき、硫酸の雫が落ちてくる範囲内から脱出したところで肉体強化をしたまま、俺は右手を手刀の形にして石壁へと突き刺す。
それと同時に重力加速度により、過度な負担が腕に圧し掛かる。
成人男性二人分の加重。
それは、必然的と言っていいほど肉体強化をしていた俺の腕の骨をあっさりと折る。
――バキッバキッ。
複雑骨折なんて生ぬるいほどの粉砕骨折。
それと同時に、俺の右腕が千切れ落下するが、遺伝子レベルで操作を行った俺の腕は瞬時に再生する。
そして、また壁に向かって手刀を放つ。
何度も肉体の超高速再生を行い、ようやく地面に到着したころには30回近い肉体の再生を終えた頃であった。
「何とかなったな」
俺は、山崎を落下した穴の底の底。
真っ暗な光さえも存在しない岩盤の上に下したあと、壁から腕を抜き右手を修復してから地面の上に降り立つ。
「はぁー、何と言うか運が良かったですね。途中から落下速度が落ちて」
そう山崎は、俺に語り掛けるように話しかけてくる。
途中からは完全な暗闇になっていた事もあり、周りを把握できなかった山崎は何が起きたのか分からなかったのだろう。
「そうだな」
まぁ、詳しく説明する必要もないし、話すつもりもない。
誤解をしているのなら、誤解させておいた方がいいだろう。
「それにしても何かが折れるような音が聞こえてきましたけど、あれって骨の折れる音では?」
山崎は、ボストンバックを開けて懐中電灯を取り出すとスイッチを入れながら俺の方を見てくる。
「気のせいだろう?」
「……桂木さん。右腕が血塗れですけど……」
「ああ、少し擦りむいただけだ。それよりも、ここはどこだ?」
「さあ?」
俺の場合は身体強化と、生体電流を利用した波動を周囲に常時展開することで周囲の地形と様子を把握する事はできる。
そして――。
「何だが、ここは今までとは違う気がしますね」
「そうだな」
たしかに、俺達が立っている場所は、岩盤と言っても先ほど俺達が走った手掘りの洞窟ではなく石畳が敷き詰められていた。
「そういえば、先ほどの襖に存在していた巨大な瞳といい、規則性が感じられないな――んっ?」
「どうかしたんですか?」
「どうやら、俺達が死んだのを確認するためか何か近づいてきているな……」
俺が展開していた波動結界。
それは物質の構成や、形状すら確認することができる。
異世界では【探索】や【索敵】の魔法に大別されるもの。
「何か?」
「おそらくは生物だ」
俺の呟きに山崎は頭に被るヘッドライトをボストンバックに素早くつけると、拳銃を取り出し、俺が視線を向けた先に銃口を向ける。
その動作は流れるようで、戦場で戦ったという言葉に嘘偽りはないようだ。
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