第18話
電話を切る。
そして気配を感じとる。
「寝ているか。だが、音は立てない方がいいよな」
自問自答しつつ、自室から出て玄関へと音を立てずに向かい靴を掴んだあとは部屋に戻る。
そして、山崎が迎えに来るまで待つ。
その間にもエレベーターの怪異の内容を携帯電話に保存していくが、一つ気になったことがあった。
それは帰り方が書いてないという点。
「どういうことだ?」
思わず呟きが口から零れる。
誰も帰ってこないのなら、ネット上にエレベーターの怪異を上げた犯人は誰なのか? と言う事になる。
ネットで検索をかけるが、話の出所は、オカルト掲示板が最初の可能性があるということくらい。
「駄目だな。あとは現地に行って調査するしか方法がないか――、って来たか?」
俺が張り巡らしていた気配察知範囲に、見知った気配が入ってくるのを感知する。
すぐに自室の窓を開け、下を覗くと丁度、黒いセダンが公団住宅の敷地に入ってくるのが見えた。
「さて、いくか」
自室の5階から飛び降り途中で壁を蹴り落下速度を殺す。
さらに殺しきれない落下速度は、空中で一回転してから相殺し音もなくコンクリートの上に着地する。
「まじか……、いま最上階から飛び降りたよな?」
「ああ、たいした高さではないからな」
「大した高さじゃないって……」
山崎が、俺が飛び降りた5階の窓を見上げながら呆れたように呟くが、今は気にしている場合ではない。
夜の内にエレベーターの怪異とやらを何とかしておきたいからな。
「そんなことよりも事件が起きた場所まで案内してくれ」
「わかりましたよ。――ったく、とんでもない高校生と知り合ったものだ」
男の車に乗り込んだあと、向かった先は千葉駅前のタワーマンション。
車を近くのコインパーキングに突っ込んだあと、山崎は車から降りてくる。
「――さて、いくか」
「少し待っててもらえますか?」
断りを入れてくる山崎。
男は、車のトランクから黒い大きめの手提げバックを取り出すと肩にかけていた。
挙動からずいぶんと重そうだ。
「さて、いきますか」
俺は頷く。
そして業務用スーパーを横に見て信号を渡ろうとしたところで足を止める。
「気づきましたか?」
「当たり前だ。一般人を装っているが、タワーマンション付近に陣取っている連中、全員プロだぞ」
足の運びと重心移動から見ても、それなりの手練れ。
異世界で言うのなら近衛騎士団クラスの実力はあるだろう。
「――で、諦めますか?」
「いや。逆に何かしらを隠している事は分かった」
「それじゃ、これで顔を隠していきますか?」
「必要ない」
壁に手をつき、体内で増幅した生体電流を操り視認できる範囲の一般人ではない人間を感電させ意識を奪う。
一瞬で10人以上の人間が、その場で卒倒し倒れる。
「さて、いくか」
「――え? いま、何をしたんですか!?」
「話している暇はない。急ぐぞ。それか――、ここで待機していてもいいぞ?」
「着いていきますよ!」
深夜帯と言っても人通りは多いし車の通りもそれなりにある。
そんな中で、タワーマンション周辺に居た人間が同時に倒れれば、騒動になり一瞬の意識という空白の間が生まれる。
その中、俺は悠々とタワーマンションの中へと入る。
「向こうか」
「桂木さんは、ここに来たことがあるんで?」
「来たことはないが、ある程度は分かる」
まぁ、周囲に生体電流を利用した電磁波を飛ばし、その反響で周囲の状況を網膜に転写しているだけだからな。
修練次第で、この世界の人間なら誰でもできるようになれる。
ホールを横切りエレベーターがある通路に差し掛かったところで、エレベーター前に5人の人影が見えた。
「――え? どうして、一般人が!?」
巫女服を着た女性が俺達を見て驚いた表情を見せると共に、神職の恰好をした男性も俺達を見て口を開けた。
「内閣府の人間は何をしているのか!」
「そこの二人! すぐに、この建物から出なさい。いま、この建物は工事をする前ですので危険ですの――」
警告を出してきた巫女服の女性と神職の男性が、意識を失い次々と倒れていく。
さらに護衛をしていた男達も同時に倒れ、エレベーター前は完全にフリーになる。
「さて――」
「この人達、神社庁の人だと思いますよ」
「そういえば神社庁に管理と管轄が移ったって言っていたな」
「いいんですかね……本当に」
「問題ない」
エレベーターの前に到着すると、そこには注連縄や塩やお酒などが置かれていて――、札などもエレベーターの扉に貼られていた。
ただ、それ以外には何かおかしな部分は見当たらない。
「まぁ、やってみれば分かるか。山崎は、ここで一旦、車まで戻った方が良いと思うが?」
「冗談でしょう? 自分の身くらいは自分で守れますよ」
「そうか。それならいいが――」
山崎を供だって、エレベーターの中へ入る。
そして扉を閉めたあと、ネットで見つけたエレベーターの怪異――、異世界に行く方法を試す。
「なるほどな……」
ボタンを何個か押したところで、エレベーター内の空気が重くなるのを俺は感じとった。
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