第17話

「まさか、桂木さんもエレベーターの怪異に興味があって調査するつもりですか?」

「ああ」


 俺は端的に返答する。

 しばらく無言になる相手。

 そして、小さな溜息が聞こえてくる。


「桂木さん、悪い事は言いませんが止めた方がいいですよ。先ほど、報道関係者に内閣府から通達が来てですね……」

「内閣府? 日本政府のことか?」

「はい。知り合いの新聞記者にも話は聞いたんですけど、エレベーターの怪異については、『報道するのはいいが調査はするな』とお達しがきているんですよ」


 報道はしてもいいが、調査はするな?

 その内容に俺は引っかかりを覚える。


「つまり、ニュースにしては良いが、現地での調査はするなということか?」

「はい。それと神社庁が動いていると……」


 聞いた事がないな。

 起動しているデスクトップPCで検索をかける。

 すると、全国の神社を包括する組織というのが表示される。


「どうして全国の神社を包括している組織が動いているんだ? 大体、エレベーターの怪異に神社関係が関わってくるのはおかしいだろ」

「桂木さん。以前に申し上げましたが、うちはオカルト雑誌を取り扱っていると言いましたよね?」

「ああ。言っていたが……」

「そのオカルト雑誌は、基本的にネットで話題になったモノや、都市伝説を扱うゴシップ記事みたいなモノなんですが」

「自分でゴシップなんて言うのか……」


 思わずツッコミを入れてしまったが、会話の流れから――、どうも……。


「まさか、この科学全般の時代に、非現実的なモノが関わっているなんて与太話を言う訳じゃないよな?」

「そのまさかですよ。桂木さんに以前に言いましたよね? 私は外国人傭兵部隊にいたと。つまり、本物と遭遇する時があるんですよ。まぁ、うちらの業界では結構有名な話ですけど、業界のことは業界人しか知らないことはありますけどね」

「にわかには信じがたい話だな」


 16年間、生きてきた世界が、そんな得体の知れないモノが跋扈している場所だとは思いたくないが……。


「冗談とか嘘じゃないんだな?」

「もちろんですよ」

「そうか……。――で、内閣というか日本政府からの要請で取材や調査はするなというお達しが来ているということか?」

「そうなります」

「だが、それなら検察庁が、エレベーター業者を任意同行で取り調べているのは、おかしくないか?」

「あくまでもデモンストレーションと言った感じだと思いますよ。だから、すぐに釈放はされると思います」


 その言葉に、俺は歯ぎしりする。

 つまり、仕事をしたフリを対外的に見せていると言う事。

 そりゃ何十人も行方不明になっている状況で、何の手掛かりも得られませんでしたという事実は公表できないだろう。


「だが、一つ疑問がある」

「何でしょうか?」

「犯人を捕まえずに問題視されないのか?」

「桂木さん。問題は問題にしない限り問題にはならないんですよ」

「ああ、そういうことか」


 つまり、事件の管轄は神社庁に移るが、何もしないままでは警察の面子にもかかわる。

 それで任意同行という形でニュースを大々的に流して、あとは何か問題が起きても問題にしないようにすると……つまり全てを有耶無耶にしたまま解決させて終わらせるってわけか……。


「なるほど……」


 気に入らないな――。

 ああ、非常に気に入らない。

 警察の面子のために、都が傷つけられたことは……。


「なあ、山崎」

「何でしょうか? というか呼び捨てですか!?」

「気分が変わった」

「まさか内閣府――、日本政府からの通達を無視するつもりですか? 神社庁が動いたってことは、今回のエレベーターの怪異は本物で命の危険があるってことですよ!?」

「関係ない」


 都を傷つけたことは万死に値する。

 それは、彼女の家族が任意同行とは言え連れて行かれたことも含まれる。

 まして、ニュースでも流されていた訳だからな。

 

 ――なら、俺がすることはただ一つ。


「自分は関係な――」

「事件が起きた場所に連れていかないという断りは無しだ」


 殺気混じりの声で、俺は声を低く抑え話す。


「……ですよね」


 相手からは、諦めたような声色が伝わってきた。





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