第16話

 ノートパソコンの電源を落す。


「寝るか」


 日本の警察は優秀だからな。

 数日の内には問題が解決するだろう。




 ――ピピピッ。


 電子音が鳴ったところで、俺は微睡の中で布団から出る。

 それにしても、地球に戻ってきて数日しか経過してないのに、かなりだらけている気がするな。


「お兄ちゃん! 大変だよ!」


 パジャマから着替えようとしたところで、ノックもせずに妹が俺の部屋に入ってきた。


「胡桃……」

「あっ……」


 上半身が裸の俺の姿を見たまま頬を赤くしていく妹。


「――そ、そうじゃなくて! 都さんが大変なの!」

「都がどうかしたのか!?」

「――う、うん……。今さっきね、純也さんから電話がきたの!」

「純也から? こんな朝早くに?」

「うん。早朝のランニングをしていたら黒い車が数台、都さんの家前に停まっていたんだって! それでスーツ姿の人達が、都さんの家に入っていたのを目撃したんだって!」

「スーツ姿?」


 思わず唇に人差し指を当てる。

 

「うん。それで純也さんが隠れて見ていたらしいんだけど、あとからパトカーも来ていたって」

「警察関係者か?」

「たぶん……そうだと思うって純也さんも言っていたけど……」

「どうして俺の携帯に純也はかけてこなかったんだ」

「電話したけど、まったく出なかったって言ってたの」


 妹の、言葉に俺は自分のスマートフォンをチェックするが……。


「着信がマナーモードになってた」

「もー、それで純也さんからの電話が私の方にきたんだよ!」

「すまないな」


 それにしても警察関係者が都の家に来たとなると、証拠が欲しいという昨日の考えは間違ってはいなかったようだな。

 問題は――。


 リビングに行き、テレビを点ける。

 すると各報道局メディアが、一斉に報道ニュースを流していた。


「お兄ちゃん、これって……」

「情報がどこかから流れたのか?」

「――え?」

「いや、何でもない」


 それよりも問題なのは、行方不明になった人達が乗っていたエレベーター。

そのメーカー全てに任意同行による事情聴取が開始されている事が報道されている。

もちろん、その中には都の父親の会社である神楽坂グループも含まれている。


「でも……大丈夫なのかな?」

「大丈夫?」

「うん。これだけ大々的に報道されているってことは、学校でも――」

「……たしかにな」


 心無い人間というのは必ず存在する。

 そして、そういう人間というのは、本人が意図せずに起こした問題であっても、悪意で曲解し間違った正義感を持って叩いてくる。


「どうしよう。お兄ちゃん」


 都と、姉妹同然の付き合いのある胡桃は都の身を本当に案じているようで不安そうな表情で俺を見上げてきた。


「大丈夫だろ。そもそも任意同行であって、それは話を聞くことだ。犯罪者ではない」

「――でも……」


 胡桃の言いたいことも分かる。

 警察が動いて任意同行とは言え、警察に話を聞かれるということは一般人からしたら有り得ないことだからな。

 そうなると必然的に風当たりが強くなる。


 俺も異世界で魔王四天王を倒す際に、範囲攻撃剣術を放って王都が半分ほど壊滅したことがあったからな……。

 あの時は、賠償金がとんでもない事になったし王都の人間からは疫病神だと言われたものだ。


「とりあえず純也に確認してみるか」


 数コール、着信音が鳴る。


「優斗か!?」

「ああ、俺だ。純也」

「よかった。ようやく連絡が繋がった」

「――で、何があった?」

「テレビは見たか?」

「ああ、見たが……、都の親父さんは?」

「警察と一緒に車に乗っていっちまった」

「任意同行に応じたってことか」

「ああ。それで都なんだが……。都の家の周りに報道陣が殺到してて今日は学校にいけないって電話があった」

「たしかに、恰好の的になりそうだからな」

「でも、任意同行だから大丈夫だとは思うけど」

「だろうな」


 俺は純也の推測に同意する。

 任意同行からの直接的な逮捕なんて殆どありえない。

 まして今回は神楽坂グループのCEOだけでなく、他のエレベーターのメーカートップも任意同行に応じているからだ。


「お兄ちゃん……」


 純也と会話をしている最中に固定電話が鳴り妹の胡桃が対応していたが、受話器を置くと話に割って入ってきた。


「今日、高校は臨時休校するって」

「臨時休校?」

「うん。何でも報道の車が校門前に大挙して集まってきていて、その配慮からだって連絡網経由で電話がきたの」

「そうか……」

「どうした? 優斗」

「純也。今日は臨時休校らしい。今、連絡網経由で電話がきた」

「だよな……。どうしたらいいんだろうな」


 一介の高校生が出来ることなんて知れている。

 むしろ、何もできないのが普通だ。


「とりあえず電話一度切るぞ」

「ああ。何かあったら、また電話する」

「頼んだ」


 電話が切れたところで――。


「ねえ。お兄ちゃん! どうしよう! きっと都さん、困っていると思うの!」

「とりあえず落ち着け。日本の警察は優秀だし、司法もシッカリとしている。証拠が無い限り最悪の事態にはならない」

「――でも……」

「大丈夫だ。何とかなる」


 昨日、山崎は話していた。

 今回のエレベーターでの連続行方不明事件は、証拠が一切ないと。

 つまり犯人を立証する手がかりがない状態だ。

 だが、問題は警視正が行方不明になっている点。

 警察は身内の事に関しては全力で動く。

 それが、今回の任意同行に繋がっているのだろう。


 俺は自室に戻り、山崎が手渡した名刺を財布から取り出し電話をかける。


「はい。西千葉新聞の山崎です」

「俺だ。桂木だ」

「桂木さん!? もしかして、今日の朝のやつですか?」

「ああ。お前、リークとかはしてないよな?」

「言ったじゃないですか。そんなことしないって。でも、他の情報機関も調べている可能性があるってことは――」

「ああ。昨日、言っていたな」

「それでは、今日は、何か別件で?」


 さすが新聞記者、察しがいいな。


「行方不明者が出たというエレベーターを教えてもらいたい。そこまではニュースで流れていないからな」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る