第14話
俺の質問に山崎は手にしていた黒いカバンの中から茶封筒を取り出すと、数枚のコピー用紙を取り出しテーブルの上に置く。
何も語らないところを見ると、情報は全て後ろ向きに伏せられた紙に書かれていると言う事だろう。
「良いのか? 俺は、とくに有益な情報を持ってはいないが?」
「俺を殺すつもりの殺気を放っておいて何を言っているのか……、これは俺への保険を受け取ってくれればいい」
「なるほど……」
どうやら、目の前の山崎という男。
戦闘面では大した強さではないが、こちらの殺気を正確に把握している事といい、それなりの場数を踏んでいるようだ。
そういえば戦争や紛争に参加した事があると言っていたし、その経験の為せるモノと言ったところか。
テーブル上に置かれていた資料を受け取る。
中には、エレベーターの怪異の問題について書かれており、日本中で発生したエレベーター内での人間の消失は全部で64件に及ぶらしい。
「ずいぶんと多いな」
エレベーターを利用した人間が64人も行方不明になっていて、いまだに行方が分からない。
しかも消えた当時は、エレベーター内の通信設備やカメラなどは不調に陥っており、しばらくしてから復帰した時には、エレベーターの中は『もぬけの空』という状況。
「警察などは関与していないのか?」
「警察関係者も10人ほど行方不明になっている。本庁刑事課の警視正も一人行方が分からない」
「それは大ごとじゃないのか?」
「ああ。だが、未だに行方不明者が誰一人見つかっていない」
「なるほどな……。――で、これが都の家とどんな関係があるんだ?」
「直接的な因果関係はない。だが、神楽坂グループは日本のエレベーターの6割を管理している。その意味は分かるか?」
「……つまり、神楽坂グループに何らかの……」
いや、違うな。
本庁の警視正までもが捜査の際に行方不明になっていると言う事は、警察も本腰を入れて動いているはず。
それなのに、何一つ手掛かりが見つけられないとすると……。
「スケープゴートか」
「その可能性は否定できない」
「つまり企業の不祥事の件で、都の家の前を張っていたってことか。だが、証拠がある訳ではないんだろう?」
「証拠なんて、警察が本気になればいくらでも作ることが出来る」
山崎は、警察が都の家に捜査をすると考えているようだが、いくら何でもそれは飛躍しすぎだ。
だが、強制捜査に踏み入らないという可能性は低い。
何故なら少しでも手掛かりが欲しいというのが、一般的に捜査をする人間の思考だからだ。
「それはないな」
「……よく分かっている」
「当たり前だ。何の証拠もない状態で、捕まえてみろ。不起訴になったとしても、警察の醜態を世間に晒すだけだ」
「だろうな」
「つまり、家宅捜査自体は行う可能性は高いとみている訳か」
「桂木君も、そうは思っているんだろう?」
「まあな。少しでも証拠が欲しいというのは常識だからな。――で、あんたは、それを面白おかしくゴシップ記事として書くわけか?」
俺の言葉に山崎が両手を上げて頭を左右に振ってみせる。
「君のような人間を敵には回したくないから、手を引かせてもらうよ。もちろん、編集長にも、今回の問題からは手を引くように言っておくつもりだ」
「賢明な判断だな」
返答しながら俺は資料を読んでいく。
ただ、やはりというか事件の決め手になるような情報は存在していない。
「それじゃ、私は、そろそろ帰るよ。桂木君」
「ん? なんだ?」
「もし、何か有益な情報があったら知らせてほしい。もちろん、情報料は払う」
「それは無理なお願いってものだ。都に関する情報を俺が売る訳がないだろう?」
「だろうな」
山崎は、コーヒーを飲まずに席を立つと清算して帰っていく。
俺はその後ろ姿を見送る。
そして、受け取った資料に、もう一度、目を通す。
「まるで、神隠しみたいだな」
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