第13話

「君は、本当に高校生なのかね?」

「何を言っている?」

「――いや、何。ずいぶんと交渉というか話し合いの持って生き方、それに突然の出来事に対しての対応に無駄がないというか」

「お前の感想はどうでもいい。名前を名乗るのか、それとも名乗らないのか、どちらだ?」


 溜息をつく目の前の中年男性は、俺から視線を逸らす。


「山崎(やまざき)幸太郎(こうたろう)だ。君は?」

「答える気はない」

「君は先ほど――」

「最初から名前を名乗るのが筋だとは言ったが答えるとは一言も言ってないからな。まぁ、名刺でも渡してもらえば、多少は口が軽くなるかも知れないが」

「分かった」


 中年の男は、懐から名刺ケースを取り出す。


「西千葉新聞? 聞いた事がないな……それに情報編集部所属とは……」


 新聞社に関して俺はまったく知識はないので、コレが本当の名刺かどうか判断がつかない。

 そこでふと気が付く。

 スマートフォンで調べればいいのでは? と。


「たしかにあるな……。何を取り扱っている新聞社なんだ?」

「その前に君の名前を教えてもらいたいが……」

「優斗、桂木優斗だ」

「桂木君ね。少し、君と話をしたいんだが、時間は大丈夫だろうか?」

「別に構わない」


 とりあえず、どうして新聞社が都の家の前を張り込んでいたのか知りたい。

 そのための話ならついていくのは問題ないだろう。

 都の家から少し離れた位置に停めてあった軽自動車に乗り移動をする。

 そして、ファミレスに到着し飲み物を頼んだところで。


「さて、桂木君。君に聞きたいことがあるんだが……」

「聞きたいこと?」

「君は、本当に普通の高校生なのか?」

「見れば分かるだろう? 普段着を着ているが、何処から見ても一般的な人畜無害な日本人だ」


 俺の言葉に苦笑する山崎という男。


「そうか……。君には私はどう見えるかな?」

「どう見えるって……」


 俺は男を観察する。

 そして大体察する。


「そうだな。カタギには見えない」


 一目で人殺しをしたことがあるという雰囲気は感じた。 

 ただ、それは殺人鬼やそういう部類ではない。

 敢えて言うのなら、国の兵士……、いや傭兵団に所属している人間と言ったところか。


「ありがとう。――で、そんな君から見たカタギに見えない男に向かって、君は暗い路地で威圧的な態度を取ってきた……その理由は分かるかな?」

「さてな」


 俺は肩を竦める。

 正直、俺からしてみれば殺そうと思えば、相手が瞬きする前に殺すことだって可能。

 つまり、何の脅威にもならない人間だ。

 そんな人間に対して下手に出る事なぞ論外。


「ははっ……」


 山崎という男が軽く笑う。

 そして、ウェイトレスが話をしている途中で持ってきたコーヒーカップを掴もうとするが――、男の手が震えていて掴むことすら出来ていない。


「わかるか? 君が怖いんだよ……。私は、これでも湾岸戦争に参加したし、外国人傭兵部隊で中東の戦闘にも参加していた事がある。その私が恐怖でコーヒーカップすら持つ事ができない」

「病気なのか?」

「君は私の話を聞いていたのか?」


 聞いてはいたが、それを俺は「はい、そうですね」と受け入れたら色々と面倒ごとになるのは分かりきっている。

 だから惚けたというのに。


「聞いていたが、一介の高校生に恐怖を感じるとか病院に行った方がいいと思うが?」


 そう話しかけながら、俺は山崎に向けていた殺気を抑える。

 出会った当初から、話を円滑に進めるために殺気を向けていたが、思ったよりも効果てきめんだったな。 

 俺が殺気をかき消すと、目の前の男は、深く溜息をつくと共に安堵の表情を見せた。


「大丈夫か? 具合が悪いのなら救急車でも呼ぶが?」

「――いや、いい。君は、いや……何でもない」

「気分が良くなったのなら聞きたいが、西千葉新聞というのは聞いたことがないが?」

「ああ、うちは月間オカルト雑誌系を主に扱っていてね」

「オカルト雑誌?」

「ああ、あとは企業の不祥事系のネタも取り扱っている」

「それが都とどう関係があるんだ?」






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