第10話
「そんな仲も何もない。そもそも純也も都も、ただの幼馴染だ。だよな?」
視線を二人に交互に向ける。
すると、純也が溜息をつき、何故か知らないが都が俺を睨んでくると顔を背けてしまう。
「ま、まぁ……とりあえず家に入ろうぜ」
純也が、都の背中を押すことで、都に抱き付かれている俺も自宅の玄関に上がることになり、そして玄関扉が閉まる。
「おじゃましまーす!」
「お、おい!」
純也は、ドアを閉めた後、華麗に俺の横を通り過ぎて家の中に入っていく。
幼少期の頃から家に遊びにきている純也にとっては勝手知ったる我が家みたいな感覚なのだろう。
「お邪魔します」
靴を脱ぎっぱなしにして家に上がっていく純也とは別に、都は靴を丁寧に並べると、これまた普通に我が家のごとく、我が家に上がっていく。
「あ、純也さん! 都さん! リビングで待っていてください!」
「ん? 分かった! うお! 何だ!? これ本格中華だな! 胡桃ちゃんが作ったのか?」
「いえ。お兄ちゃんが作りました」
「優斗が!?」
「へー。優斗がねー」
純粋に驚いた純也とは対称的に、不愛想な都。
表情ではなく口調が、酷く不機嫌そうだ。
「そうなんですよー。お兄ちゃんが、料理を作っている場面なんて初めてみました!」
「いや、お前。テレビ見てただろ……」
一度たりとも俺が料理をしている場面を見ていなかったぞ? この妹は。
「二人が来るまで夕食抜きでしたので、ご飯を食べましょう!」
「じゃ、俺は取り皿用意するな!」
「私は、飲み物の用意をするね」
すでに我が家状態で夕食の用意を勧めていく都と純也。
それを見ていた我が妹は。
「それじゃ、私はコップを出しますねー」
どうやら都の手伝いをすることを決めたようだ。
それを見ていて、都は少しご機嫌斜めな感じだったが何時も通りになった事に少しだけ安堵しつつ、椅子に座る。
そして料理を取り皿に分けて食事を始める。
「お兄ちゃん。テレビ見てもいい?」
「別に構わないが、飯が冷めるぞ?」
「は-い」
返事だけはいいんだよな。我が妹は。
テレビを見ながら食事をする妹。
「そういえば、体は何処も問題ないのか? ガードレールがヤバい事になっていたけど」
「ああ、あれはトマトケチャップだったからな」
「どうして学校の帰りにトマトケチャップを……」
「ディスカウントストアで安く売っていたからな」
「学校に行く前に、そんなに朝早く店とか開いてたっけ?」
俺と純也が話している合間に、都が突っ込みを入れてくる。
まったく痛い部分を突いてくる。
「前日に購入したのをカバンから出すのを忘れていたんだ」
「つまり一日、カバンの中で熟成させていたと?」
「まぁ、そうだな……」
落としどころとしてはこんなところだろう。
「何だか、優斗って抜けているね」
「お前に言われたくない」
「なんでよ!」
「だいたい、ガードレールについた血がやばかったら警察だって、そのまま帰したりはしないだろ? 少なくとも救急車で運ばれるはずだ。なのに自宅に自分の足で歩いて戻ったんだぞ? 少し考えれば、どこも怪我をしていない事くらいは分かるだろうに」
「――お、おい」
「…………」
純也が、慌てた様子で都を見る。
そんな俺も純也の視線に釣られる形で都の方へと視線を向けて。
「……わ、わたし」
体を震わせる都。
そういえば、都は俺をすごく心配していたと純也が言っていたか。
よくよく考えれば異世界では普通の怪我であっても、こちらの世界ではありえない怪我という認識だよな。
なのに、今の言い方は少し配慮が足りていなかった。
「すまない。俺を心配してくれたんだよな」
「うん……、本当に……、優斗が死んだら、どうしようかなって思ったんだから……」
「あー」
純也が、声にならない声を上げる。
そして妹と言えば――。
「お兄ちゃんは、少しデリカシーを覚えた方がいいと思うの。そんなんだから、都さんと私以外からはバレンタインチョコもらえないんだよ!」
俺のフォローではなく攻め立ててくる我が妹。
「わかった。分かった。俺が、全部、悪かった! それで! いいですよね?」
俺は丁寧語で都を伺うように見る。
都は、そこでようやく「うん……」と小さく呟く。
「それにしても優斗が無事で本当に良かったな! 都とか優斗のことが――ぐふぉっ」
「ちょっと! 純也!」
脇腹を都に手刀で殴られ悶絶する純也。
「俺が何だって?」
「ううん。何でもないの! 純也とか、時たま変なこと言うからね!」
「それなら、それでいいんだが……」
――えー、次の番組に移ります。現在、半年後に地球の公転軌道上を通過する予定の小惑星トータチスですが、地球への衝突の可能性は限りなく低く1%以下とのことです。
都と話をしていると、テレビから音声が流れてきた。
テレビの画面には小惑星の直径は100キロ近くあり、地球の公転軌道上を遥か遠くで通過するとNISAが発表したとテロップが出てきた。
「トータチス?」
「お兄ちゃん、知らないの?」
「テレビとか殆ど見ないからな」
「テレビみなくてもネットでニュースとかになっているだろ」
「そうなのか?」
全然、気が付かなかったな。
「半年前から世界の終わりだって、ネットで騒がれていたからな」
「なるほどな」
純也の言葉に俺は頷く。
「まぁ大体、地球が本当にヤバイなら報道なんてしないだろ。それにニュースだって、特に問題ないって言っているからな」
「だよなー」
――次のニュースです。ここ1週間ほどの間で、日本各地で行方不明になる方が続出しているという神隠しの速報ですが、行方不明者は誰もがエレベーターを使ったあとに姿を消したと――。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「何だ?」
「エレベーターの怪異って知ってる?」
「知らん。というか、ご飯を食べないで、さっきからテレビばかり見ていたら駄目だろ」
「はーい」
テレビを消して、食事に戻る妹。
まったく、神隠しなんていい加減なタイトルを付けて報道するのってどうなんだ?
「優斗は、どう思うの?」
興味津々と言った様子で俺に話しかけてくる都。
「神隠しなんてあるわけがないだろ。この科学全盛の世の中に、そんなものがある方が問題だ」
「優斗って、すごくリアリストだよね」
「いや、普通に考えて16年生きてきて変な事象に巻き込まれたことがあるか?」
「ううん。ないけど……」
「それが答えだ」
俺はチャーハンを頬張りながら返答した。
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