第8話

「え!?」

「どうした?」


 何故に、そんなに驚いた顔をしているのだ? 俺の妹は……。


「だ、だって……、お兄ちゃん。料理なんてした事なかったよね……」

「そうか?」


 よくよく思い返してみれば、間違えて召喚される前は料理した記憶がない。

 まぁ記憶に無いだけで、実際は料理の仕方はネットなどで見た事があったから知識だけはあったが、面倒だったからやっていなかっただけだったが……。


 ただ異世界の料理は、正直言って、大味過ぎて、口に合わなかったから30年も魔王討伐の為に生きていたから自分で料理するようになったんだよな。


「う、うん……。いつも、私が料理していたから……」

「まぁ、たまには俺が料理するのもいいだろう?」

「でも……、お兄ちゃん」

「何だ?」

「本当に料理できるの?」

「出来るから。俺の料理は冒険者ギルドの連中とか王族とか仲間の間では、かなり好評だったぞ。王宮料理人にも料理を教えたことがあるからな」

「ぷっ――、くすくす。お兄ちゃんって冗談を言うんだね。もう! ゲームのやりすぎだから! そんなに必死なんて、私もびっくりだよ! そこまでして料理したいんだねっ! くすくす」

「まぁな」


 思わず口から滑ってしまった言葉。

 それに反応して妹は大きく口を開けて笑って、涙まで浮かべている。


「もーわかったよ! お兄ちゃんに料理任せるね。でも、台所を汚したら片付けてよね」

「分かった」


 一人だけ30年近く生きていると、どうやら感覚的にズレが生じているようだな。

 それよりも異世界の話を思わずしてしまったが、妹が冗談だと流してくれたから良かったものの、今度から気を付けるとしよう。


 とりあえず冷蔵庫の中を見る。

 食材の内容から言って、それなりの物が作れそうだが――、まぁスタンダードなモノが良いだろう。

 具材を取り出し、妹がテレビ番組を見ている間に、野菜や肉を包丁で切り、熱したフライパンに卵を投入。

 すかさずご飯を入れてから具材を投入し、身体強化をした上でフライパンを動かし直火で具材の油を飛ばす。

 

 料理は30分ほどで終わり、チャーハン、チンジャオロース、マーボー豆腐、わかめスープ。

 中華料理で纏めてみた。

 さすがに異世界では中華料理の調味料などは手に入らなかったので、似たような味の料理を作ることは出来たが、試食すると、段違いに旨いモノが出来た。


「まぁ、こんなものだろう」


 料理を盛った大皿をリビングのテーブルの上に並べていく。

 

「お兄ちゃん……」

「どうした? 何か、やばかったか?」

「ううん。本当に料理出来たんだね……。それに、すごく美味しそう!」

「純也や都が来てからな」

「う、うん……。それより、お兄ちゃん、少し雰囲気が変わったような気がする」

「俺は、そうは思わないが……」

「だって、朝まで僕って言っていたよね?」

「どうだったかな……」


 正直、50歳近くまで生きていたから、昔の記憶が、かなりあやふやなんだよな。

 細かいところまで指摘されると色々と困る。


「――で、でも! いまのお兄ちゃんの方が、胡桃てきには有りだと思うよ! すごく頼りがいがある気がするし!」

「そうか? ならいいが……」

「で、でも」

「何か問題でもあるのか?」

「ううん。もう大丈夫なのかなって……」

「大丈夫?」


 何か妹が気にかけるような問題を俺は抱えていただろうか?

 まったく記憶にないな。


「学校の人とかに以前あったって、すごく落ち込んでいたから……」

「純也や都にか?」

「ううん。そっちじゃなくて……。で、でも! 大丈夫ならいいの!」

「まぁ、胡桃が、それでいいならいいが……」


 まずいな。

 30年前の記憶なんて殆どないぞ?

 あとで自分のパソコンでも見て確認しておくか。

 細かいところで齟齬があったら困るからな。


 料理をテーブルに運んだあと、俺はすぐに自室へと向かう。

 30年ぶりの自室だけあり、少し懐かしい気がしたが。


「――さて……」


 まずは、俺の学生の頃に何があったのか――、そして……、どうして妹が不安そうな表情で確認してきたのかを調べることにする。

 そして、中学時代の教科書を見て気が付く。

 教科書は、鋭利な刃物で切り付けられたように表紙がズタボロになっていた。


「あ、そうか」


 そこで俺は自分が、中学校の時にどう過ごしていたのか、どう感じていたのかを思い出した。

 そして、どうして遠い高校に通う事にしたのかを。

 たしかに、妹も聞きにくいはずだ。


「へんな心配をかけさせてしまったな」


 そう思ったところで、インターホンが鳴った。





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