第五話 愛のカタチ

「…ごめん、もう1回言って」


 俺はアルにもう1回言うように頼んだ。聞こえなかったからもう1回、と…。


 …嘘だ、本当は聞こえていた。この耳で、しっかりと。だからこそ、今言われたことに動揺して、もう1回言わせたんだ。


「え、だからさぁ…」


 アルが少し姿勢を整えてから、もう一度あの言葉を口にした。


「好きな人とかいねぇの?」


 …どうやら、俺の耳は嘘をついていなかったようだ。もう一度、同じ言葉を聞くことになるとは。もしかしたら、俺の聞き間違えと思っていたが、そんな妄想はこの現実のせいでかき消された。


「す、好きな…人…か」


「お、動揺してんな。言ってみろよ、どうせここには俺とルイしか居ねぇんだし」


 アルの顔がニヤつく。うぅ…そんな顔されたら言うしか…いや、でも…。


 …あえて、少しディープなこと訊いてみるか。


「…アルってさ、同性愛…ってどう思う」


「え、唐突になんだよ」


「ま、まぁまぁ…アルの意見が聞きたくて」


「んー…まぁ俺はアリだと思うぜ」


 マジ、アル的にはアリなのか…。何か、少しだけ不安が軽くなった様な気がする。


「何でアリだと思うんだ?」


「だって愛のカタチなんか人それぞれじゃねぇか」


「じ、じゃあさ…」


 俺はどうしても聞きたかったことを、恐る恐る口にした。


「俺がもし、アルのこと好きって言ったら…どう、思う」


 声が少し震えていたのが自分でも分かった。だってこんなの実質告白じゃないか。正直何で今言葉に出来たのか分からない。


 俺がそう言うと、アルは少し驚いた様な顔をした。でもその後、何故か少し照れた顔をして言った。


「まぁ…シンプルに嬉しいわ」


「えっ」


「そりゃまぁ…仲良いやつに好きって言われたら嬉しいだろ」


「…相手が男でも?」


「ルイに限る」


「ふぇ?」


 アルは「やべ」と言ったと同時に口元に手を当てた。待て、今とんでもないこと口にしたよな?俺に限るって…どういう意味だ。


「ま、まぁ好きって言われたら嬉しいよ、俺」


「そ、そうか」


「そろそろ上がるか、一緒に入れて楽しかったわ」


 そう言うとアルは立ち上がって、扉の方へ歩いて行った。その後ろ姿を俺は暫く見つめていた。小柄で細い体、猫なのに虎柄、小さいけど強そうなその姿が俺は好きだ。


 俺も上がるか。俺は立ち上がり、アルの後をついて行った。


 脱衣所でも二人きり、俺はなるべくアルの方は見ないようにした。…色々見えちゃったらアレだし。


「……」


 …そういや、ガイアとは一度だけ見せ合いしたんだっけか。偶然風呂に二人きりになったからって「見せ合いしようぜ」なんて向こうが誘ってくるから乗ってしまったんだよな。そしたらあいつやたらでかいやら太いやらでびっくりした覚えが。やっぱり熊って色々とでか━━━


「ん」


「わぁ!?」


 いきなりアルが後ろから抱き着いてきた。何故か掌は俺の腹につけた状態で。


「…やっぱ身体でけぇな」


「そ、そうか?」


「どうやったらこんなに筋肉つくんだよ」


「えー…筋トレ、とか」


「俺筋トレ毎日頑張ってんのにちっとも筋肉つかないんだけど」


「種族的に筋肉つかないんじゃない?」


「マジかよ、虎になって出直すわ」


「いや猫のままでいいと思う」


「筋肉欲しいし…」


「筋トレもうちょい頑張ってみたら」


「ん、そうする」


 少しの時間だけだが、他愛もない話が盛り上がった。というか、少し気になっているのだが…。


「…アル、何時まで俺に引っ付いてるんだ?」


「あ…わりわり」


 アルは俺から離れていった。もう少し今の状況が続いても良かったのにな…。止めたのは俺だけど。


「俺、抱き着き癖あるみたいなんだよな」


「え、そうなのか」


「ガイアとか抱き着き甲斐あるぜ」


「今度やってやろうかな」


「やめとけ、多分ぶっ飛ばされるだろうから」


「アルは平気なのか?」


「あいつにぶっ飛ばされるの慣れてるから平気」


「そういう問題かよ…」

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