第六話 戦争のない星

 脱衣所から出た俺たちは、自室へと戻る帰路に着いていた。いやまぁ…今夜は色々あったな。アルと初めて二人きりで風呂入ったりとか、同性愛についてどうこうとか…。アルの意見が聞けて俺は良かったけどな。


 自室のドアが近づいて来た頃、アルが言った。


「あ、ルイ。悪いけど、少し付き合ってくんね」


「ん、良いよ」


 取り敢えず二つ返事で承諾した。アルは自室のドアの前を通り過ぎて、何処かへ向かって歩く。俺はその後を着いて行った。アルの尻尾が歩く度に揺れる。それを見て少し可愛いと思ってしまった。


 同じ様な風景が続く廊下を歩き続ける俺たち。そして、俺たちが辿り着いたのは、上へと続く階段だった。この階段を登ることは滅多にない。エリク軍の本部は三階建てなのだが、一階は本部、二階と三階は班部屋という作りになっている。B5があるのは二階なので、一階で本部に報告に行った後は二階のB5に戻るだけなので、三階には行った覚えがない。


「階段登るのか?」


「あぁ」


 アルが階段を、一段、また一段と登っていく。その後を俺も階段を登りアルの後を追っていく。


 にしても俺、この階段登るの初めてだな。三階ってどんな感じなんだろうか。二階とあまり変わらないのかな。


 階段を登りきり、三階に着いた。三階の廊下の景色は二階とあまり変わらない様にみえた。


 するとアルは、更に階段を登り始めたのだ。


「あれ、三階の上なんてあったのか?」


「ルイ知らなかったのか、ここ屋上あんだよ」


 屋上…知らなかった。三年はここで生活してるのに。まぁこっち来る用がなかったから知らなかったのも無理は…ない、よな?


 その階段も登り切ると、扉が目の前に現れた。アルはドアノブを捻った。キィ、と音がなり、扉が開いた。扉を抜けると、満天の星空が俺の視界を覆い尽くした。


「わぁ…」


 思わず見とれてしまった。夜は基本寝てたから、こうやって星を見ることはあまりなかった。


「綺麗だろ。俺、時々ここに来て星を見るんだ」


「アル、そんな趣味あったんだな」


「趣味っつーか、なんかボーッとしたい時とかにここに来るんだ」


 そういうと、アルは床に寝そべって大の字になった。


「こうやるとな、自分が宇宙にいるみたいに感じるんだよな」


 俺もアルの隣に寝そべってみる。…本当だ、視界一面を星空が埋め尽くし、何処までも続くような宇宙が目の前に広がっている。


「星ってさ、綺麗だよな。何であんなに綺麗なんだろ」


「んー…やっぱ、宝石みたいに輝いているからだろ」


「なるほどなぁ」


「アルってさ、星の名前とか分かるのか?」


「あぁ、一応」


 そういうとアルは、空に向かって指を指した。


「あれはベガだな、んでこっちにあるやつがアルタイル。んで、こっちにあるのがデネブだな」


「へぇ、凄い明るい星だな」


「あれ、夏の大三角って言うらしいぜ」


 俺たちは暫く空を眺めていた。その間、アルは幾つもの星の名前を言ってくれた。するとアルが、ある星の名前を挙げた。


「なぁ、地球って知ってるか?」


「地球?」


「その星さ、ニンゲンって言う俺たちと同じ命を持ったヤツがいるんだってさ」


「おぉ…そりゃ凄いな」


「しかも二足歩行なんだってよ。俺たち獣人と同じだ」


「一体どんなヤツらなんだろうな」


「な、しかもその星、俺たちの星と違って戦争が殆どないらしい」


「え、そうなのか」


 戦争がない…か。…いまいち実感が湧かない。戦争がない…もうずっと戦争を続けている俺たちとは真逆ってことか。平和なのだろうか、その『地球』は。


「ルイは行ってみたいと思うか、地球」


「んー…正直気になるところではある」


「だよな、俺も行ってみてぇわ」


「戦争がないって、どんな感じなんだろうな」


「さぁな、平和で楽しくやってんじゃないかな」


「だと良いな」


 戦争がない。…いつかこの星もそうなる時が来るのだろうか。この宇宙の何処かには、地球の様に戦争がない星だって沢山ある筈だ。この星がいつか、戦争のない星の仲間に入ることが出来ればと、俺は、そう胸の中で思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る