第四話 二人の空間
俺は何とか自分の股間を隠しながら、風呂場に入った。まったく、あそこで暴走するとは…。時と場合を考えてくれ、俺の股間。
「あ、ガチで貸切じゃんこれ」
後から入ってきたアルがそう言った。結構広い風呂場は、今だけ完全に俺たちの物らしい。
「なんか贅沢だな」
「だな」
取り敢えず俺たちは体を洗うことにした。まぁ洗わないと始まらないしな。
…というか、さっきからアルの方を直視出来ない。なんと言うか、その…アルの裸体見た瞬間卒倒しそうで。
「ルイ?」
大体、なんで俺はこんなに怯えているんだ?普通に男同士で風呂に入ってるだけじゃないか。それだったら俺だって、ガイアやサイファ、ロゼルと入る時はこんな風にはならない。
「おーい」
やっぱ俺…アルのこと…好き、なんだな。やっぱおれ、アルを意識して見てるところがあるんだな。自覚ゼロだけど…。でもやっぱ、俺がホモって知ったら…俺がアルを好きって言ったらどんな反応されるのかな。
「んー…」
でも、それでも俺はアルのこと━━━━
「おりゃ」
「わぁ!?」
アルが突然、俺の体に泡を付けてきた。腹や背中をわしゃわしゃと触られ、泡が体にまとわりついた。
「ちょ、何事…」
「だっていくら名前呼んでもスルーされたから」
「え、呼んでたの?」
「考え事も程々にな…?」
苦笑いしながらそう言ったアルは、再び自分の体を洗い始めた。…俺の考え癖も考えものだな、ホント。
てかアルの裸体見ちゃった…。体細すぎないか…?前々から細いなとは思ってたけどここまでとは…なんか今度ご飯作ってあげよう。
「あ、そういえばさ…」
「ん?」
「ルイの腹筋すげぇな、めっちゃ硬かった」
「えっ…」
「あれ、俺そこまで赤面される様なこと言ったっけ」
…情けねぇな俺。何気ない一言に赤面するほどとは。…いや、アルが言うからここまで破壊力があるんだろうな。俺限定でだろうけど。
「あ、俺もう体洗い終わったから、先湯船入ってるぜ」
そう言うと、アルは立ち上がって湯船の方へ歩って行った。タオルが上手いこと仕事して、アルのを直視するには至らなかった。…何とか俺の心の秩序は保たれたようだ。あれを直視したらどうなることか。
…俺も早く体洗っちゃお。
◆
一通り体を洗い終わった俺は、アルのいる湯船へ向かった。
「おまたせ」
「お、やっと来た」
タオルを頭の上に乗せたアルが俺の方を見て言った。因みにちゃんと股間はタオルで隠していたのでアルからは見えていない…はず。俺はタオルが水面に当たる寸前で上に引き上げ、後は脚で無理矢理隠して湯船に浸かった。…めちゃくちゃ厳重にガードしたな、俺。
「やっぱ風呂っていいよな」
アルが浴槽の縁に頭と腕を置いて言った。俺も風呂は好きだ。戦場で張り詰めた神経を休めることが出来るから。
「たしかにな」
「あ、そういや話変わるんだけどさ」
「ん?」
「俺とルイが一緒に風呂入るのってさ、多分初めてだよな」
「あ、あぁ、たしかに」
「…なんか俺、ルイと入れて嬉しいわ」
「えっ?」
「なんつーんだろうな、いまいちどう言葉にしたらいいか分かんないんだけど」
嬉しい、か。…俺は嬉しいというか、緊張の方が大きかったな。てか緊張しかなかった。俺は多分下心があったから…だと思う。でもアルは純粋に俺とは入れたことを喜んでいる。
やっぱアルってすげぇわ、うん。自分でもあんま言葉にしにくいんだけど。
「あ、そういえばルイってさ」
「ん?」
「好きな人とかいねぇの?」
「…え?」
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