第三話 二人きり
「……」
俺は一人、本部へ向けて足を進ませていた。やっと銃声の止んだ街。逆に静か過ぎて不安になる。本当は何処かから狙われているんじゃないかと思ってしまう。念の為警戒しながら足を進める。
すると、目の前を駆けていく、見覚えのある虎柄の獣人が通り過ぎて行った。まさか、今の奴は…。
「アル!」
俺がその名を口にすると、虎柄の獣人は振り返りこちらを見る。
「お、ルイ!生きてたか!」
声の主が俺だということに気がつくと、俺の方へ走ってきた。
「何とかな、そっちも無事で良かった」
「へへっ、まぁな」
良かった、アルが生きてた。それだけで俺は心から安堵した。本当は抱きしめてやりたいけど…いきなりやられたら、流石に困惑されるだろう。こういう時、幼なじみのガイアならお互いなんの躊躇もなく出来るんだろうけど…。
「取り敢えず戻ろうぜ、多分みんなも帰ってきてる」
「お、おう」
俺たちは走って、本部へ急いだ。
◆
俺たち二人は無事に本部へ辿り着き、報告を済ませて自室へと戻っていた。
「ふぅ、疲れた…」
「お疲れ、アル」
「ルイもお疲れさん」
アルが伸びをしながら応える。今回はいつも以上にヒヤヒヤする展開が多かったな。あの状況で銃弾が一発も当たらなかったのは奇跡だと思う。
「うっし、着いたな」
気づけば、もう自室の前まで来ていた。みんなはもう帰ってきているのだろうか。
「ただいまっと」
「ただいま」
アルがドアを開け、俺もそれに続いて部屋に入った。
「お、帰ってきたか」
「二人ともおかえりー」
「おかえり、生還してきたか」
部屋には、サイファ、ロゼル、ガイア。全員帰ってきていた。どうやら全員今日も生きて帰ってこれた様だ。
「あー疲れた…」
「風呂入ってくれば?俺たちもう入ってきたし」
「あ、マジで?じゃあルイと行ってくるわ」
「え、ふ、風呂」
ふ、風呂だと…?いや、風呂が嫌いな訳では無い、寧ろ好きだ。問題はそこじゃない。…アルだ、アルと二人で風呂だ。…裸、見ることになるよな…。い、いや、確かにガイアやサイファ、ロゼルとは入ったことはあるのだが、アルとは初めてだ。ましてや二人きりでなんて。
「あ、ルイ風呂の気分じゃない?」
「あ、全然、入る入る」
あ、やば、ノリで返答しちゃった。
「よっしゃ、じゃあ行ってくるわー」
「いってらー」
二人分のタオルと着替えを持って行ってアルは風呂場へ向かって歩き出した。それに続いて、俺も焦ってついて行った。
因みにエリク軍の風呂場は共同制となっている。とは言ってもこの時間なら誰も居ないだろう。多分ピークだったのはガイア達が風呂に行った頃だと思う。
…これ尚更ヤバいじゃん。完全二人きりじゃん。…あーヤバい倒れそう。理由は知らない、いや、考えたくない。
「おーいルイ、着いたぞ?」
「あっ…、もう着いたか」
「また考え事かよ」
「ま、まぁ…」
「ホント好きだよなぁ、考え事」
考えてることの殆どアルのことですけどね。…なんて口が裂けても言えないな。
脱衣所に入る。…俺の命もここまででしょうか。見るのもヤバいし、見られるのも恥ずかしい。もう頭の中真っ白だ。
なんて俺がボケボケ考えている内に、アルはどんどん服を脱いでいく。なんの躊躇いもねぇ…。いや、俺がおかしいだけだ、俺がアルに対し、こんな感情を抱いている所為で、俺がこんな反応になってしまっているだけだ。
「ルイ、服着たまんま入る気か?」
「あっ、い、いや脱ぐよ」
もう上半身が完全に露出した状態のアルが言う。…アルってホント細身だよな。身長も低い方だし…。まぁその身体を活かして戦場に立っているんだけどな。
「大丈夫かぁ?なんか悩みあるなら聞くぞ?」
「あー大丈夫大丈夫…俺の問題だし」
「…ルイが悩み抱えてると俺も不安になるんだけどな」
「え?」
「そりゃそうだろ、仲間がなんか悩み抱えてたら、俺だって気になるし、その悩みを解決してやりたくなる」
「アル…」
「…ま、本人が話したくないっていうなら話は別だけどよ」
ニヤッ、と笑いながらアルは言った。…アルは優しいな、ホントに。仲間思いで、ここまで他人のことを気にしてくれる人はそうそう居ないと思う。
「…少しは元気出たか?」
「あ、う、うん」
「なら良かった」
またアルは笑顔になり、着替えの続きをし始めた。…俺も着替えるか。
ササッと上の服を脱ぎ終わったところで、アルが話しかけてきた。
「ルイ、なんか筋肉量増えた?」
「え、そうか?」
「なんか腹筋とかより引き締まってる感じするわ」
「最近トレーニング増やしたからかな…」
「…俺こういう体型めっちゃ好きなんだけど」
…え、マジ。アル俺の身体好みなん…?筋トレしてて良かった。…じゃねぇ、何サラッと恥ずかしいこと言ってくれてんだ…。
「…あれ、何そのモッコリしてんの」
「わぁ!?」
…俺の股間自由だな、オイ。
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