第二話 戦争と兵士と
外はもう、銃声が四方から鳴り響いていた。敵はもうすぐ近くにいるみたいだ。
「俺はこっちから片付ける!」
アルが声を上げ、銃声のする方へ駆けて行った。短機関銃を構え、一人で。
「あ、俺も行くぜ、タイガー!」
次に声を上げたのはガイアだった。両手から半透明な板を作り、それをシールドとしながらアルの後を駆けて行った。
「俺も行くとしますか…!」
サイファが重機関銃を構え、今、最も激戦区であろう一番銃声が鳴り響いている方向へと足を進めて行った。
「よっしゃ、俺も行ってくるぜ」
「ルイ、気を付けてね!」
「おう!」
手を振るロゼルに見送られ、俺もライフル片手に戦場へと足を運んで行った。
…にしても、戦況は酷いな。そこらで撃ち合ってやがる。…俺も何時までも地に足つけてたら殺られるな。俺は近くにあった7階建てのビルの中へ入った。
建物、かつて、文明が存在していた証。それが今となってみてはどうだ、荒れ果て、唯の戦場と化している。
痛ましい。
今まで、何度そう思ってきただろうか。昔の人は、こうなる事を望んでいたのか?戦争を、望んでいたのか?
…そんな俺の考えは、近くで鳴り響いた銃声の音によってかき消された。
「うわ、かなり近くだったな…」
俺は階段を登り、7階の窓から外の様子を伺った。すると、少し離れた所に、敵兵士が三人見えた。…よし、やるか。
割れた窓から銃口を覗かせ、スコープを覗き標準を合わせる。そして、何の躊躇いもなく引き金を引く。
バァン!という銃声と共に、脳天を貫かれた敵兵士が地面に倒れたのがスコープ越しに確認出来た。
各個撃破、これが俺のやり方。ま、スナイパーやってる以上。こうする事しか出来ないのだがな。
…こんな単純作業、今まで何百回、何千回と繰り返してきた。今更命を奪う事に躊躇いもない。
そう、所詮、敵なのだから…。
◆
三十、いや、もっとかな。それ位の敵兵の頭を抜いてやった。慣れたもんだな、人を撃つのも。やっと銃声も止んできた、そろそろ潮時かな。
その時だった。
遥遠くに、キラン、と、光が見えた気がしたからだ。あの光方は間違いない、スコープに光が反射した時のものだ。
撃たれる…!
「…ッ!」
俺は咄嗟に身を伏せた。その刹那、ヒュン、と、一瞬音がし、俺の後ろにあった窓ガラスが、バリン、と音を立てて割れた。間一髪だった様だ。
「あっぶねぇ…」
心臓がバクバクいってるのが分かる。ずっと戦場に立っていても、いざ撃たれそうになるとこうなってしまう。
撃たれなかったのは幸いだが、俺がいる場所がバレてしまったのは事実。次に顔を出したら、その時はもう俺の命はないだろう。
俺は匍匐前進の状態で移動する。階段の物陰に隠れることで、何とか相手の射線は切れた様だ。
「ふぅ…」
胸を撫で下ろしたのも束の間。とんでもない事が起こってしまった。
「このビルだ!あのスナイパーがいるのは!」
何と、俺がいるビルに敵軍が押し寄せてきたのだ。…マズいな、どうしよう。俺が得意なのは遠距離戦であって近距離戦はあまり得意ではない…武器もライフルだし…。俺が今手元にあるのは……あ、これは…。
仕方がない、一かバチかやってみるか…!
カンカンカン、と、敵はどんどん階段を登り、上に上がって来ている。数は…七人位か。いいよ、かかって来いよ。迎え撃ってやる。
そして遂に。
「居たぞ!」
「オラァ!」
敵の姿が見えたと同時に、俺は短機関銃を敵目掛けて乱射した。
実は俺は、アルに少しだけ短機関銃の使い方を教わったことがあった。もし、近距離戦に発展した場合の対処法として、俺からアルに頼み込んだのだ。
◆
「短機関銃の使い方?」
「あぁ、どんな風に近距離で戦えばいいのか知りたくて…」
「んー…つっても相手目掛けてブッ放せばいいだけだぜ?」
「え、そんなアバウトなのか…?」
「俺はいつもそうやってるけど」
「…なんか、意外と単純なんだな」
「まぁな、ライフル程神経使わなくても行けると思うぜ。ただ近距離ってことで相手からも撃たれやすいってのが難点だな」
「成程な…」
「あ、でもな、1つ注意して欲しい事が」
「ん、なんだ?」
「短機関銃ってのは一発の威力が弱い。だからちゃんと相手に当てないと倒れてくんねーんだわ」
「へぇー…」
「ま、スナイパーのお前なら関係ない話だわな」
「え、何だそれ」
「そりゃお前、スナイパーやってんだから命中率高ぇだろ」
「あーそういう…」
「他に何があんだよ」
「さぁ…?」
「…ははっ」
◆
アル、お前に言われたこと、今実践してみるぜ。ぶっちゃけ何も教わってねぇけど…!
「オララララァ!」
俺は銃の反動をなんとか耐えながら、敵に弾をブチ込む。しかし、敵を三人倒し切らない内にマガジンを使い切ってしまった。
「あ、やば…」
「ドラァ!」
敵兵の反撃、向こうも銃を乱射してきた。俺は咄嗟に壁裏に身を隠したが、マガジンを交換する時間はない。
畜生、やるしかねぇ…!
俺は壁から飛び出して、ライフルの銃口を敵に向けた。全てを、この一発にかける…!
「喰らいやがれぇ!」
敵が一列に並んだ一瞬を突いて、俺は引き金を引いた。銃口から放たれた銃弾は、三人の脳天を貫通し、壁と衝突した。至近距離からのライフルの銃撃に、三人共々その場に倒れた。どうやら、七人とも殲滅出来たようだ。
「はぁっ、はぁっ、はあっ…」
俺はその場に足から崩れ落ちた。安心から来た脱力感に襲われた。助かった…生きてる、俺…。
さっき撃たれたスナイパーの位置からも、この位置なら射線を切れているみたいだ。今なら絶好のチャンスなのに、撃ってこないというのはそういうことだろう。
俺は立ち上がり、敵のスナイパーを警戒しながらその場を後にした。外はもう銃声の音はしない、代わりに戦死した兵士たちが転がっていた。
…こんな時代が何時まで続くのだろうか。最早死体も見慣れてしまった。そんな俺が嫌になってくる。
━━━━早く戦争が終わればいいのに。
そんな誰しも思っているであろう事を、俺は心から願っている。
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