プロローグ 2



 夜になり、それぞれは一度家に帰ったり、それぞれ時間を過ごした後、学校が静まり返る頃に学校の裏門入口前にやって来る3人。裏門の前に堂々と立つのは怪しいので、裏門の脇にある草場の木陰に隠れていた。

「何で私まで……」

 そんな中、不満げに言うのは花園。

「夜遅くなるから無理にとは言わないって言っただろ」

 あの後、夜遅くに女子が外出は危ないし危険だと言ったが、結局来た花園に雪平は疑問があった。

「まぁせっかくだし……ちょっと楽しそうだったから」

 目をそらしながら花園が言う。不満ながらも、潜入には否定的ではない様子だった。

「よろしい。ではこれから作戦を始める!」

 そういう雪平に、何もよろしくはない、と橡は心の中で突っ込む。

「なんだ作戦って。聞いてないぞ」

 そして聞いてもない作戦という単語に疑問を抱く。

「どうせ対した作戦じゃないよきっと」

 橡の疑問に乗せるように、つーんとした表情で花園は言う。

「う、うるさいな! 今考えればいいだろ!」

 慌てて否定する雪平に、呆れながら橡が答える。

「作戦は事前に立てるものだろ……まぁいいや。そうだな、まずはこの校門を抜けてどうやって忍び込むかだな」

 裏門は当然閉められていて、簡単には入れない。それに付随して監視カメラもあるので、乗り越えて入るのはリスクが高い。

 学校の周囲は5m程ある高い壁で囲まれていてほとんどの場所に凹凸がなく、よじ登って入るのもまた難しい。

 どうしようかと思考を回すと、橡は一つの結論に至る。

「普通に考えて、どっかの教室に隠れてた方が難易度低かっただろ。俺たち普段中にいるんだから」

 そういうと、一瞬の静寂が流れ、雪平が口を開く。

「…………確かに!」

 今更な事実に素直に納得する雪平。しかし、素直に納得したかと思えば、怒り表情でビシッと橡を指差す。

「お前先言えよ!」

「知るかよ! お前がここ集合つったろ!」

「やる事わかってるなら気付くじゃん! 疑問に思ってくれればいいじゃん! 提案しろよ!」

 文句を垂れる雪平に、橡は自分の額に手を当てて呆れる。

「お前が昼休みに作戦を立てる時間作れば良かっただろうが! ダラダラと昨日見たテレビの話しやがって……。何だよ、カッコいい洗濯物の畳み方って! どうでもいいんだよ!」

「お前だってノってただろうが!」

「話合わせてやったんじゃねぇか! 内心どうでもいいってずっと思ってたよ!」

「あわせてんじゃねぇよ! 思ったことあったらいつもみたいにに突っ込めよ!」

「突っ込むのもカロリー使うんだよ!」

 どうでもいいことでやり取りをする二人。

「……ねぇ、不毛な喧嘩やめてくれない?」

 そんな2人に、花園は冷め切った目で冷たく言い放つ。

「……そ、そうだな。過ぎた事言っててもしょうがない」

 花園の言葉で冷静になる橡。対照的に、雪平は舌を出して橡を煽っていた。

「……さて、どうするか」

 そんな雪平をイラッとしながらも無視して考える橡。

「それなんだけど」

 しかし花園が突如そう言うと、雪平も変顔を止め、2人は花園に注目する。

「1箇所もしかしたら入れるところあるかも。ついてきて」

 そう言うと、花園はどこかに向かって歩き出す。橡と雪平は何も分かっていない顔をお互いに見合わせると、後を付いていくように歩き始める。


 花園は二人を先導するように歩きながら説明を始める。

「この学校、裏手に山と隣接する森林があるでしょ? あそこだけ金網フェンスになってて、さらにはあんまり手入れされてないのか、フェンスに穴が空いてたの。もしかしたらそこから入れるかも」

「おぉ〜!  流石花園さん! さっそく行こうぜ!」

 思わぬ花園からの情報にテンションが上がる雪平。

「……なんでそんなの知ってるんだ?」

 しかし橡はそんな誰も知らなさそうな事を何故知っているのかを疑問に思う。

「この学校に入った時に虱潰しに全部見たから」

 平然とそういう花園に、橡は驚きながらあきれたように言う。

「……凄いな。あんな未開の地みたいな所入ろうとも思った事ないぞ」

 橡が驚くのも無理はない。旧校舎の裏手は草木が生い茂り、山に向かって森林が伸びている。その一角はあまり整備されず、人が普通に入れるような状態ではなかった。

 藪の中にわざわざ入ろうとするものは多くないだろう。

「 せっかくなら全部の場所見て起きたくない?」

 と、花園は変わらず平然と言ってのける。

「「ない」」

 橡と雪平は声を揃えて言った。

「……そ」

 短く、さして興味もなさそうに花園は返答を返す。

 その会話を皮切りに、少しの間無言で森林の中を歩いていくと、校内と校外を分ける金網のフェンスにたどり着く。

「さて、着いたよ」

 そういうと、花園は後ろについてきていた二人に向き直り、上を指さす。指さされたほうを見上げる二人。

「……なるほど、確かに通れそうな穴空いてるな」

 フェンスの高い場所をみて納得する雪平。対して、認識はするが、どことなく納得が行かないように橡は言う。

「あいてるはあいてるが……なんであんな所に穴あくんだ?」

 それもそのはずだ。高さ5mはある金網フェンスの上には、侵入防止用のワイヤーが付いている。その下1mぐらいの位置に、人1人ギリギリ通れそうな幅広な穴が空いていた。

 そんな場所に誰がどうやって穴をあけるのか疑問に思うのは不思議ではなかった。

「さぁ? 怪奇現象だったりしてな!」

 率直な疑問を抱く橡に嬉しそうに雪平は囃し立てる。当然のように二人は無視し、まっとうな答えを花園が答える。

「昔誰かが空けたんじゃないかな。私たちみたいに侵入する為に」

「わざわざあんな高い所にか?」

 花園の答えにさらなる疑問を橡が投げかける。

「高い所だからだよ。校内からも外からも木の陰で見えないし、警備員もライトでフェンスを照らしこそしても、わざわざ藪の中に入って上まで確認しないよきっと」

 花園の推測に、雪平も納得する。

「あ〜、なるほど。流石花園さん、頭いいっすね」

 感心したように手をポンと叩く雪平。

「……まぁ、理由なんかなんでもいいだろ。さっさと行こうぜ」

 自分で疑問を提示しておきながらそれを済ませ、橡はささっと駆けだすと、ヒョイヒョイっとフェンスをよじ登り、穴の側まで行き状態を確かめる。

「どうだ〜? 通れそうか?」

 地上から雪平の確認が飛んで来る。

「なんとかいけそうだ」

 そう言うと、橡はフェンスを超える時の要領で片脚ずつ順番に穴に通し、身を出来るだけ屈めながら穴を抜ける。難なく穴を抜けると、早々とフェンスを降りる。

「通れたぞ。次はどっちが来る?」

 地に降りてフェンス越しに問いかける橡。

「……ふむ、花園さんいけます?」

 雪平は何やら少し顎に手を当て考えた後花園に尋ねる。

「登って通るぐらいなら多分出来るけど……スカートだしちょっと……」

 恥じらうようにスカートを軽く押さえる。

「なら、俺たちが先に行って旧校舎に入れる所探しに行けばいいんじゃないか? その間に登ってこればいい。雪平、次お前が来いよ」

 察した橡はそう提案し、雪平に先に来るように促す。しかし雪平は否定の言葉を返す。

「でも、運動オンチな花園さんが万が一落ちた時に助けれる用にこっちとそっち両方に男子が居た方がいいと思いますよ」

 その台詞に、花園がムッとした表情で答える。

「運動オンチって…得意じゃないだけで苦手じゃないよ。……分かったわ。じゃあ、私が先に行くから、2人はこっち見ないでよ」

 運動オンチ扱いされたことにムキになったのか、やる気になる花園。

「え、見てないと助けれませんよ?」

「危なくなったらヘルプ出すからいいの! 早くして!」

 普段あまり見せない花園の感情の入った声に、2人は慌ててフェンスと反対側を見る。

 2人が反対を向いた事を確認したのか、フェンスを登る音が聞こえる。

「金網の穴、棘みたいになってるから引っ掻いて怪我しないように気をつけろよ」

 登る花園に、先に通った橡がちょっとしたアドバイスをする。

「わかった! 絶対こっち見ないでよ!」

 一歩一歩、ゆっくりだがフェンスを登る音は高くなって行く。確実ではあるが、順調に登っているようだった。しばらくの間、花園がフェンスを登る音だけが響いていた。

「……なぁ橡さんよぉ」

 唐突に雪平がフェンス越しに背中を向き合いながら橡へと問いかける。

「なんだよ。てかさっきから何でお前敬語なの?」

 二人は振り向くことなく、背中どうして語り合う。

「この状況をあなたは男としてどう思います?」

「どうって、何が?」

「そんなもん決まってるだろ。今振り返って上を見上げれば…そこには秘密の花園が広がってるんだぜ?」

 そんなことを言い始める雪平に、橡はあきれながら突っ込む。

「秘密の花園って……花園の秘密だろ」

「へ、変な話しないでよ! 2人ともサイテー! 」

 二人の会話が聞こえていた花園は頬を赤くして恥ずかしそうにして2人の話に横槍を入れる。

「わ、悪い……突っ込みを間違えた……」

 条件反射で突っ込んでしまった橡はすぐさま反省する。

 しかし、雪平は背後を向いたまま熱く語り始める。

「何を謝る橡! 俺たち男子にとって、女子のパンツが見えるのは最高の瞬間! それが今、確実に見れるチャンスなんだぞ! ここは……好感度を下げても見るべきではないか!?」

 拳を握りしめて、悔しさを噛みしめる様に雪平が言う。

「……よく本人がいる前で堂々と言えるわね」

 フェンスを登る花園も、あまりにも堂々と話をする雪平に、頬を赤くしながらも冷静に感心していた。

「男として言いたい事は分かるが……それはない」

 雪平の熱い思いを、橡も冷たく遇らう。

「何女子の前で気取ってんだ。素直になれよ! 俺と一緒に……罪を被らないか……?」

 しかし一向に引こうとしない雪平は諭す様に言う。

「な、何馬鹿な事言ってるの!?」

 雪平の言葉に慌てる花園は二人を警戒し、片手で身体を支えながら思わずスカートを押さえる。

 しかし、橡は至って冷静に答える。

「いや……気取ってるんじゃなくて常識だ。人前で常識的になるのは当然だろ。それがマナーであり失礼のない慎みある行動だ。だから俺は普通に否定する」

 真っ当な橡の意見に、雪平は黙り込み、静寂が一瞬現れる。

「…………正論の暴力!」

 涙ぐみながら顔の前で悔しそうに手を握りしめて震わせる雪平。

「橡くんが常識的で良かった……」

 安心した花園は、再び順調にフェンスを登っていく。

「花園、今どの辺だ?」

 悔しがる雪平を放って置き、状況を確認する橡。

「今穴のところまで来たよ。今から通るから……こっち見たら二度と口聞かない」

 慌てた様子もなく、至極いつもの声色で言う花園の言葉は、何よりも本心であると二人は理解した。

「だとさ。見なくてよかったな。雪平」

「……橡さんが常識人でよかったです」

 少し寂しげな声で雪平は言った。

「よっ…んん……」

 背後から頑張る花園の声だけが聞こえる。

 一番花園は足を踏み外す可能性がある場面に、少し緊張する2人は何かあった時咄嗟に動けるように姿勢をとり、黙って耳を澄ます。

 一歩一歩を確実に進む花園は、ゆっくりと慎重に穴を抜けていく。

「もう……ちょっと……あ……ちょ……まって…」

 頑張っていた花園の声が突如静かに慌てた声に変わる。

「大丈夫か!?」

 心配になった雪平が声を上げる。

「だ、大丈夫だから! こっち見ないでよ! す、スカートが金網に引っかかっただけだから……」

「スカートが……金網だと!?」

 クワッと目を見開く雪平。

「と言う事は…もしかして今…下からどころではなく…どこから見てもパンツ丸見え状態!?」

 あくまでも真剣な声色で雪平は言った。

「そ、そんな捲れてないよ! ちょっと持ち上がってるだけ! ……こんな時に変な事言わないで! あぁん……もう……」

 スカートを引っ張りどうしよう、困った声を出す。

「橡! このハプニングは予想してなかったぞ! 想像したらヤバエロくない!?」

「……やめてあげなさい」

 少し頬を赤くして、橡は目を閉じながら否定しきれない突っ込みをするしかなかった。

「花園! 危ないからヘルプ出してもいいんだぞ! 俺たちが助けてやるから!」

 割りかし真剣なトーンで雪平は言う。

「パンツ見たいだけだろお前!」

 しかし、隠された雪平の思いを橡は察し、突っ込みを入れる。

「それの何が悪い! 救助する際に見えるパンツは不可抗力だろ!」

「救助よりパンツ見るのが目的なのが不純なんだよ!」

「だって……パンツ見たいんだもん!」

「素直にパンツ見たいの認めんな!」

「お前だってパンツ見れて花園の助けになるなら嬉しいだろ!」

「否定はしないが俺もパンツ見たいって思われるからやめろ!」

 人に聞かれたら最低な酷いやり取りを繰り返す二人に花園が、

「2人してパンツパンツやめてよ!! こっちは必死なんだから! これぐらい……私1人の力で何となるから待ってなさい!」

 先ほどよりも厳しめの口調で怒る。

 ムキになった花園は、絶対に助けなんか呼ばないと決意し、自力で何とかすることに。

 下の2人は、怒られたので黙って花園が無事抜けられるのを待つ。

「これを…ここの引っ掛かりが…これをゆっくりあげれば……とれた!」

 変に落ち着いたお陰か、割と簡単にハプニングは脱出したようで、花園は嬉しいそうな声を出す。

「無事抜けたか?」

 安心した声で橡が確認する。

「うん! 後は降りるだけだから待ってて」

 変わらず慎重に一歩一歩降りてきて、無事地面へと降り立つ花園。

「ふぅ……もういいよ2人とも」

 花園が許可すると、2人はフェンスの方を向く。

「おつかれ」

 橡は素直に花園を労った。

「なんとかね。後は雪平くんが来るだけだね」

 そう言い雪平の方を見ると、雪平は上を見上げ、フェンスの穴をじーっと見ていた。

「? どうしたの?」

 花園が問いかけると、間を開けて雪平は答える。

「いや……あそこで花園がパンツ丸出しになってたんだなって思って……」

「そ、想像しないでってば! それに丸出しじゃないし! 早く来なさいよ!」

 橡の思考を誤魔化すように顔を真っ赤にして否定する。

「ほーい」

 雪平は軽く返事をするとトントンとテンポよく登っていき、難なく穴をするりと抜け、あっという間に中に入ってくる。

「……あんなに苦労したのにそんなあっさり来られると複雑……」

 気に入らない、といった表情で花園は雪平に言った。

「こういうのは得意だからな。花園にしては凄かったと思うよ。頑張ったな」

「…………」

 唐突にまっすぐ素直に褒める雪平に花園は黙ってしまう。

「さて……長い侵入だったが、もういっちょ壁があるんだよなぁ」

 雪平がそう言いちょっとした藪と雑木林を出ると、裏から潜入した事もあって、学校の奥の方にある旧校舎が既に目の前にあり、それを見上げる3人。

「どっか窓の鍵壊れてないか一通りぐるっと見てみるか」

 雪平の言葉に従い、手近な所の窓を確認しながら、旧校舎を時計回りに確認していく。

「……ここのどこかに落ちたんだね」

 不意に花園が呟く。落ちたとは、屋上から飛び降りた女性の事だと、一瞬で気が付く二人。

 校舎の屋上から飛び降りたのだ。校舎の周りのどこかに落ちたのは、言うまでもなく分かってはいた。

「……流石に綺麗にしたんだろうな……色々と……ヤバいことになるだろうし」

 花園が言った事により、少し寒気を感じる雪平。

 窓を確認しながら校舎の周囲を進むと、割とすぐに鍵が壊れた窓を見つける。中に入る前に校舎の周りを一通り確認し、痕跡がないのか確認するが何処にもなく、仕方なく壊れた窓の場所に戻り、そこから雪平が1人中に入り、花園の為に入口の鍵を中から開き、旧校舎へと入ることに成功する。

 2人は入り口から中に入ると、後から入った橡が扉の内鍵を締める。

「なんで鍵しめたんだ?」

 雪平が頭に?を浮かべていた。

「警備員来た時に開いてたら変だろ」

「あ〜なるほど」

「お前潜入に向いてないな……」

 雪平の感の悪さに呆れる橡。

「スニーキングなんて普段しないからいいんだよ! いくぞ!」

 中は半物置状態になっており、予備の机やら椅子が至る所に置かれていた。階段の踊り場も例外でなく、3人は校舎の両端にある階段を登れる場所から行き来し、校舎を登っていく。

 窓から満月の光が差し込む廊下を静かに歩く3人。3階の廊下まで行った所で、先頭をあるく花園が楽しそうに言った。

「夜の校舎ってなんだかわくわくするね」

「今日は快晴だしな。屋上からなら、遠くまで夜景が見えるかもな」

 窓の外を見ながら少し揚々とした言い方で橡が答える。

「この学校、少し高い所にあるからね。良い景色かも」

「屋上なんて行ったことないからな。どんな風に見えるんだろ」

 観光にでも来たかのように、楽しげに和気藹々と会話をする橡と花園に、黙っていた雪平が足を止めて率直な疑問も投げかける。

「お前ら……怖くないのか?」

 二人は振り返り、橡は笑う様に雪平に言葉を返す。

「なんだよ雪平、怖いのか? 帰るか?」

「いや、怖いってか……お前らもう少し怖がれよ。噂の幽霊が出る旧校舎だぞ?」

「私は幽霊なんて信じてないから」

 なんてことない言い方で花園が答える。

「……もっと怖がると思ったのにな」

 少しつまらなさそうに拗ねる雪平。

「そう? でも、本当いるってわかったら相当怖いと思うよ」

「いるかいないかわからない存在だから怖いんだろ普通……」

 普通の感覚とは違う事をいう花園に呆れていると、不意に雪平の後ろの方をじっと見ている橡に雪平が気が付く。

「……橡? どうした?」

「いや……なんか物音しなかったか?」

 雪平と花園が喋っている間に、何か物音を聞いた様子の橡。

「物音って……」

 静まり返る3人。すると、遠くの方で、コツ……コツ……と足音が聞こえるのを全員が確認する。

「な、何の音だ!? 幽霊か!?」

 小声で慌てる雪平。

「多分警備の人が見回りに来たんだと思う……隠れないと!」

 花園の言葉に二人はバレたらまずいと瞬時に意識し、教室に隠れようと今立っている位置から近い教室を覗くと、机が部屋一杯に埋まっていて入れる様子もない。

「空いてる部屋に入るぞ!」

 小声で橡が指揮を執ると、物音を立てないよう静かに移動し、隠れられる場所を探す。



 懐中電灯を片手に、見回りにやってきた警備の人間が、先ほど橡達がいた場所までやってくる。夜も遅く、眠たげに欠伸をしながら雑な様子で点検を進めていく。

 すると、普段とは違う様子の扉を警備員は見つける。

 いつもは閉まってるはずの資料室の扉が、空いていることに気が付いたのだ。

 一考して考えると、今日警備室に、旧校舎に保管してある資料室の鍵を教師に貸し出したのを思い出す。鍵は返したが、どうやら教師は閉め忘れていたらしい。

 昼間の見回り担当が気が付かなかったのか、その時は使っていたのか、警備はめんどくさそうに溜息をつき、資料室の中を覗きライトを当て中を見みる。

 中には、ロッカーが二つと資料棚、教卓が3つ乱雑に並んでいる。

 入口から部屋の中を一通り懐中電灯で照らし、特に異常を感じなかったので、中に入りもせずに扉を閉め、鍵で扉に施錠をする。

 警備員の足音は資料室を離れ、段々と音はフェードアウトしていく。音が消えてしばらくすると、校舎の入口を開ける音が聞こえ警備員が外に出ると扉を閉め、施錠をする音が遠くで聞こえる。

 小さな2つの窓から、月明かりが照らす暗い資料室。廊下よりも少し薄暗く、電気がなければはっきりと物が見えないほどだった。

 安全だと分かった所でロッカーの扉が開き、花園が出てくる。

 3つある教卓のうち2つの教卓の下から、それぞれ橡と雪平が出てくる。

「ふぅ……あぶなかったな」

 額を拭いながら雪平が一息つく。

「ちゃんと見回りするんだね。ドキドキしたぁ」

 警備員の見回りに、花園は少し関心していた。

「昼間だとよっぽど出会うことないからな」

 そう言いながら橡は薄暗い中、扉まで行くとドアノブに片手を置き、閉められただろう内鍵を探す。

「…………ん?」

 しかし、内鍵にあるであろう場所を触ってみても、手には鍵穴の感触しかない。

 身をかがめ、鍵のありそうな場所を間近で見てみる。

「どうしたんだ?」

 様子がおかしい橡に、首を傾げて問いかける雪平。

「この部屋……内側にも鍵がいるんだけど……」

 橡は、鍵が見える様に少し横によけると、二人に示す様に指をさす。

 顔を近づけて確認する雪平と花園。二人の目に見ても鍵穴が見える。

「…………」

「…………」

 絶句する二人。3人は思わず無言で顔を見合わせる。

「これってもしかして……」

 額に冷や汗を一筋たらし、花園が小さく呟く。

「……閉じ込められてんじゃねぇかああああ!!」

 雪平は控えめな叫び声を上げ、咆哮を上げる様に天井を仰いだのだった。



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