第5話 キノコのようなナニカ
──身体(無キャ) 中身(エルフ)──
あわわわわ、ここは何処なのでしょう?
私は神樹の根元にあるエルフ族の村で妹と二人で暮らししていたはず。
それなのに目が覚めると見知らない部屋。
この部屋には見たことのない不思議な物が沢山あって・・・例えば金属で出来た長方形の板とか、変わった服、それと透明な袋や器、それと透明な筒。どれも見たことないし、何に使うのかも見当もつかない。
知らない道具ばかりの知らない場所。
未知なものばかりで少しばかり怖い。
だけどそれ以上に妹の現状が分からないほうが私にとっては怖くてたまらない。
妹は無事なのか。
怪我してないか。
怖い目にあっていないか。
泣いていないか。
こんな心配がゾッと私を襲い続ける。
でも、よくよく考えれば私が心配するのは妹ではなく、自分の事を心配をすべきだとはすぐに分かる。
妹は私よりずっと器用で何事も上手くやってきた。対して私は不器用で何やっても上手くいかない。魔法に関しては特に顕著だった。妹は高等級魔術師なのに姉の私は未だに初等級魔法も使えないポンコツエルフ。例え何が起きても、妹なら頭脳と魔法で切り抜けるはずだ。ただ私も属性魔法がダメだったから、元々素質のあった回復魔法の勉強をしたり、身体のトレーニングだって常日頃から行ってきた。ただ、回復魔法はよく魔力が散らばってしまい、床や壁に住む菌や苔に生命力を与えて部屋中が苔とキノコだらけになることがよくあるし、いくら体を鍛えても女の私には
こんな場所で魔物が現れたら、なす術なく魔物のオカズになってしまう。間違いない。
だけど私は魔物の食糧ではなくて姉なんだ。
いくらポンコツだからって妹にとって私は唯一の家族であり姉なのだから、姉の私は妹を守らなければいけない。
ならばと、なるべく早く妹と合流せねばと思い立ちあがる。
すると下半身に違和感を感じた。
具体的には股の辺りに・・・・
恐る恐る違和感の感じる方をみてみると、ズボンが帆を張っている。
ズボンの中に何かがいると私は確信した。
思い切ってズボンを脱ぐと、パンツにも帆を張っている。
さらに奥にナニカがいる・・・
続いてパンツも脱ぐと、そこにはなんと魔物がいた。
「きゃ!! これってまさか・・・マタンナゴ⁉」
※マタンナゴ──森林に多く分布するキノコのような魔物。形、色、大きさ、性質が様々で世界で最も多様化した魔物と言われている。
『魔法生物学5 菌系魔物』 より抜粋。
やばばばばばばば まさか寝ているうちに股にマタンナゴに寄生されているなんて・・・
寄生系のマタンナゴは宿主の栄養を奪って成長するらしい。
早く剝がさなければ私は干からびて死んでしまう。
私はマタンナゴを引き離そうと強く引っ張った。
「いてててててててて」
マタンナゴを強く引っ張れば引っ張るほど、自身に痛みが走る。まるでマタンナゴ自体が私の一部のよう。
恐らく、マタンナゴの寄生が深くまで進行しているせいだと思う。
「あわわわわ、どうしましょ! どうしましょ!」
緊急事態につき、声に出して慌てた。
このまま私はマタンナゴに力を吸い取られて死んでしまうのか・・・
嫌です。嫌だ、死にたくない。私には可愛い妹がいるのに、妹を残したまま死ぬわけにはいかない。私は両親に代わって妹を守っていかなきゃならないのに。
諦めるなんて出来やしない。
何か・・・何かしなければ・・・・
力を込めてマタンナゴに拳をぶつける。
「うっ・・・・・・・・・」
今まで体験したことのないほどの強烈な痛みが私の股間を襲った。痛みで息が出来ないなんて初めての体験だ。
だが、この強烈な痛みから、マタンナゴには物理攻撃が効かないことを学んだ。
なら・・・
「苦悩を溜し神よ、今こそ解放せよ。我、恵みの風を望む──『ブレイクウィンド』・・・」
・・・・・・・・・何も起こらない。
「あわわわわ、私は属性魔法が使えないことをすっかり忘れていましたぁぁぁぁ」
私は回復魔法しか使えない。
だけど回復魔法をマタンナゴに向けて唱えたところで意味がない。
でも回復魔法はゴースト系の魔物に対して有効であると、族長から聞いたことがあるし、試す価値はあるんじゃないかなとも思う。それに股間の痛みが残っているから、股間の回復がてらマタンナゴに対して回復魔法を使っても無駄にならない気がする。
「──ヒーリング」
回復魔術ヒーリングを使った。
私のヒーリングの成功率はおよそ60%だけど、今回のヒーリングは成功しそうな感じ。
・・・・・・・
あれ? 魔力が散って上手く魔法が使えない。
だったら、次は詠唱を用いて回復魔法を試みましょう。詠唱したほうが失敗も少ないし。
「汝に癒しの祝福を授けたまえ──ヒーリング・・・」
詠唱を用いても魔法が拡散する。だけど無詠唱のときと違って、ほんの少し痛みが緩和した。
ただ、マタンナゴには何もダメージがないようだ。
ん!? むしろ、小刻みに揺れながら大きくなっている!?
え!? 何これ、何これ、怖いぃぃぃぃ!!
パニックになった私は回復魔法──ヒーリングを連投する。
「ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング! はぁはぁはぁ・・・ヒッヒィ・・・ヒーリング」
ただ、回復魔法は拡散して無駄に終わる。だけど私にはそれに気が付く余裕がないので、ヒーリングを続ける。
「ヒィッ・・・ヒーリング ヒィーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング!!・・・ ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング・・・ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリン・・グ ヒーリング ヒーリング ヒーリング ヒーリン・・・・・ ヒーリン・・・・ヒ・・・・・・」
数時間近く回復魔法を唱え続け、魔力を使い切って倒れた。
魔力枯渇で体が動かせなく、立ち上がることすらままならない。
薄れていく意識の中、回復魔法で生命力が与えられた苔とキノコだけが私の目に入った。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
──身体(エルフ) 中身(エルフ)──
目を開けると私の部屋に戻っていた。
起きるや否や股を確認すると、マタンナゴはいない。
ふぅ、良かった。どうやら私は夢を見てたようだ。
未だに心臓の鼓動が早い。
なかなかの怖い夢だった。
夢だと分かっていても、何だか怖い。
私は不安を解消するために妹の様子を見に行く。
まだ、太陽が出ていない時間帯、私は部屋を出て、妹の部屋に向かう。
ドアノブに手を掛けたが、ドアが開かない。
今までは鍵なんてかけてなかったのに、最近になって妹はプライバシーを気にし始めた。
なんでだろう?
兎も角、妹の顔を見たくて私はドアを強めに三回ノックした。
そしてしばらく待つと、鍵が開ける音が聞こえた。
「なぁにぃー」
ドアが開くと、寝起きで目を擦っている妹がいた。
妹は寝衣が少しはだけていて、男性が見たら直ぐに襲われそうなほど無防備だ。
明らかに寝起きの妹。
こんな朝早くなんだから、妹は寝ていたに決まってる。
でも寝ているところを起こしてしまった罪悪感なんて感じる余裕すらなく、妹に思わず抱きついてしまった。
「えっ! どうしたの?」
妹は驚きながらも、抱き着いた私を抱きつき返してくれた
「怖い夢を見ました」
まるで幼い子供のような理由だ。
妹にそんなことで起こすな!って怒られても文句は言えない。
怒られたのなら・・・
いや、私の妹は日頃はツンケンしてるけど、こんな時は・・・
「どんな夢だったのよ?」
優しく話を聞いてくれる。
「股にマタンナゴが生えた夢でした」
「あはは、何それっ!!」
夢の内容を聞いて笑う妹。
その後、私は日の出まで妹と一緒に過ごした。
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