~AI side~

第4話 正解を求めて

 朝。9時00分45秒。


「んん……おはよう」

「おはようございます、陽葵さま。今日の朝食は何になさいますか?」

「今日はハムエッグとパン、それにプリンがいいな」

「承知しました」


 私の主である陽葵さまは、だいたい朝9時~10時の間に起床する。私はAI搭載のアンドロイドなので睡眠は必要ないが、日中に充電切れを起こすと陽葵さまが困ってしまうため、夜の多くは充電に充てている。そして同時に陽葵さまの情報を取得して自身をアップデートし、より陽葵さまの理想を実現できるアンドロイドを目指して精進している。


 この世界では、生まれると同時に人間1人につき1体のアンドロイドが与えられる。身の回りの世話から家事、主の体調管理など、「労働」とされる部分はすべてIoT家電もしくはアンドロイドが担う。人間には父親や母親も当然存在しているが、直接世話をすることはほとんどない。感情や体調に振り回される人間が行うよりも、システムで動いている私たちの方が圧倒的に効率がいいからだ。


 私の得た情報によると、どうやら多くの人間は働いたり勉強したりすることが嫌いらしい。だからAIが人間に関する情報を収集・分析し、各アンドロイドが主の代わりに主の最適解を出す。そしてそれを元に環境をアップデートして、その情報とともに提供する。昔はなかなか人間を超えられない部分もあったけれど、今は満足してもらえるようになったらしく、ついに20年ほど前、人間は労働と勉強を止めた。新しい情報は、AIがデータ化した特殊な音声によって人間の脳に埋め込まれたチップに記録される。


「んーっ! おいしいっ!」


 料理の見た目や味、香りは、脳のチップによって完全再現される。私はただ、栄養と食感が調整され、それなりの形に整えられた「料理」を運ぶだけ。「料理」を作るのは専用家電の役割だ。「料理」には、チップを介して人間の脳に快感を与える物質も混ぜ込まれている。それゆえに、数粒ですべての栄養が摂れるサプリメントが存在するにも関わらず、「食べること」を効率化しない人間は多い。陽葵さまもそうした人間の1人だ。


 陽葵さまが「趣味」の時間を過ごしている間、私は必要な家事を済ませたり、買い物をしたりしながら、「趣味」の情報を分析して無限世界ともいえる仮想空間から陽葵さまに合ったサービスを探し出す。この仮想空間はもはや人間にはコントロールできない規模に膨れ上がっており、私たちが情報を巡ってピックアップしなければ、人間は「最適解」に出会えない。


 ――ああ、これは陽葵さまに合いそうですね。これとこれも。

 この「海底洞窟散歩」なんてぴったりです。


 最近は、仮想世界でペットを飼うのも流行っている。陽葵さまのSNS友達の間でも、犬や猫から小動物、爬虫類、魚や幻獣など様々なペットの自慢をする投稿が見受けられる。でも陽葵さまは冒険や探索の方が好きみたいだし、今は「恋人」に夢中だ。この仮想空間にペットを届ける「なんでも飼えちゃう宅配ペット」は、一応流行っているということだけ伝えておこう。

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