第3話 AIが正しい世界

 パートナーとなるアンドロイドや家電は、人間の脳のチップと連携し、その対象の情報を24時間365日収集し続ける。そして誰よりも正確に理解してくれる。わたし専用のAIは、わたしよりもずっとわたしに詳しい。


「陽葵さま、今の陽葵さまにはこちらの服がお似合いです」

「陽葵さまのために新しいゲームを仕入れました」

「室内のデザインを陽葵さまに合うようアップデートしておきました」

「陽葵さま、不要な友人を削除して、新しいお友達を追加しておきました」


 最近はこんなことまでしてくれるようになった。服は自分では選ばない服だけど、きっとこれがベストなんだろう。部屋もオシャレに模様替えされている。


 ――削除された友人って誰だろう?

 まあでもAIが不要と判断したならいっか。新しいゲーム楽しみだな。


「陽葵さま、情報アップデートのお時間です。こちらの機器を耳に接続し、アップデートを行なってください」


 わたしたちは勉強する代わりに、AIが定期的に作成してくれる情報で脳内をアップデートする。必要最低限の読み書きや計算の方法などの一般常識に加え、家電に新しく追加された機能や人間に必要な情報、最新の友人のプロフィールなど、わたしたちが知らない間に変わっていることが多々あるからだ。情報は暗号化された特殊な音声で耳から取り込まれ、脳に記録される。


 そして同時に、不要な情報は削除される。AIが作成するデータは効率も考えてプログラミングされているが、それでも人間の脳には限界がある。ただただ詰め込んでばかりではキャパオーバーで壊れてしまう、と教えられた。それに、不要な情報をいつまでも記憶していても仕方ない。


「陽葵さま、今日の服はこちらです」

「陽葵さま、今日のゲームは外に出て、この街を2周して帰ってくることです」

「陽葵さま、陽葵さまには今後友人は必要ありません」


 わたしのアンドロイドは、今日もこうして私の行動の最適解を教えてくれる。AIが導き出した答えに従うだけで何も問題なく生きられるなんて、本当に便利な世の中だ。頭の片隅に入っている情報によると、昔の人は人生に悩んでは失敗して迷走を繰り返していたらしい。自分で考えるなんて、そんなことをして取返しのつかないことになったらどうするのか。仮想空間と違って、現実世界にはリセットボタンなんてないのに。


「ありがとう。じゃあ、行ってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」


 街に出ると、ある人はバニーガール姿で歩きまわり、ある人は同じ場所をぐるぐると回り続け、ある人は噴水の中で凍えながら水浴びをし、ある人は――。彼らも私と同じように、AIに指示をもらって行動しているのだろう。一見意味のない行動のように見えても必ず意味があるし、必要なことなのだ。だってAIは絶対正しいし、間違わない。さて、わたしも街を2周してこなきゃ。


 AIのおかげで、今日も世界は平和だ。

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