第2話誕生と旅立ち

人間の言語は敵国の言語として、戦いの途中に相手の言葉を理解できないよりできた方が利点は多いため魔族の言語以上に叩き込まれた。だから、この人生での私の両親が何を言っているかわかる。残念ながら、それに返事を返すことはできないが。

赤ちゃんになってみて分かったことは、とりあえず暇だということだ。寝るぐらいしかすることがないし、一日中天井を眺めていないといけないので天井のシミの数まで計算し始めた。魔法?そんなものこの体で使ってしまったらどうなるかわからないじゃないか。


六カ月がたった。気づいたことが一つある。この姿で一番腹立たしいのは、おしめを変えてもらう時だ。屈辱極まりない。しかも、泣き喚くしかないからな。母親は不機嫌になるし、でも気持ち悪いから言わないわけにはいかない。体も少しは大きくはなった。そういえば、わたしは人間基準で言えば女の子らしい。


兄もいる。元気な男の子だ。時々、面白そうにわたしを覗き込んではほっぺたを触った。暇だから、遊んで欲しいな。



「「誕生日おめでとー!!!」」

一年が経った。体はまた大きく成長した気がする。ハイハイができるようになって、そろそろ魔法を使ってもいいかもしれない。目の前に大きいケーキが置いてあった。誕生日おめでとうと、大きく書いてある。

「あ、あわりがちてとう。」

まだ、うまく言語を発せない。

「アナベルは賢いな!!」

四才差の兄アレスはそういいながらも、目はケーキに釘付けだ。小さい子が食欲に正直なのはいいことだ。

「じゃあ、ケーキ食べようか。」

そういって、母マドレーヌがケーキを切り分ける。

最近になってようやくまとも食べ物が食えるようになったからな。離乳食はもう卒業した。

「アナベルは手がかからなくて、楽だわー。」

「そうだなー。お父さんは、寂しいぐらいだよ。」

聞こえなかった振りをしておこう。多分、一歳児で言語を理解できる子供はいない。

「アレスはそろそろ、家事手伝いを手伝ってもらわないと。」

「えー。」

彼は、口の周りにクリームをいっぱいつけながらそういった。



二歳になった。歩けるようになりさらに行動範囲が広がったおかげで、外にも出れる。出たことはあまりないが。家がそもそもかなり大きく感じる。

「アナベル、今日は何食べたい?」

「ビーフシチュー!!!!」

ついにしゃべれるようにもなった。魔法を使う練習もそろそろ始めようか。小さい威力でなら何とか使えるはずだ。


四歳になった。最近母と父によく病院に連れていかれるので盗み聞きをしてみたら、なんらかの先天的な理由で私の身体は成長しにくくなっているらしい。私はあまり気にしてはいないが、母と父は辛そうだった。確かに、今はほんの少しだけ周りの子供たちより背が低い気がする。大人になったら大変な身長差になっているのだろうか。


六歳になった。体はあまり大きくなっていない。周りの子と10㎝差くらいだろうか。ごめんね、とお母さんには言われた。お父さんも珍しく泣いていた。前、盗み疑義した通り、両親の身体の異常が原因でで引き起こされるまれな病気らしい。


十歳になった。体の成長は完全に止まってしまった。一応、毎日家の柱で測ってはいるものの望みは薄そうだ。満足に家事も手伝うことができない。料理も、洗濯も魔法を使うぐらいのことしか私はできないのだ。母も父も優しいが、体が弱い私を気遣いすぎていて過保護すぎる。一日の大半を魔法を使うことで暇をつぶすようになった。神が病弱な人間を憐れんで与えた、という魔法の始まりについての物語も決して間違いではないのかもしれない。


十五歳になった。

「本当にいくの?アナベル?」

「うん。魔法を学びたいんだ。」

十五歳といえば、どこの子供も親から離れて学校に行く年だ。

「第五学校か。そうだな、お前には合ってるかもしれん。」

第五学校。最近新設された国立の学校だ。実践的でなく学術的な魔法を重点的に学ぶらしい。

「体に気を付けてね。あなたは体が弱いんだから。」

「あはは、大丈夫だよ。たぶん。」

これ以上家にこもりすぎても何もならないしな。

「何かあったら、すぐ帰ってきなさい。」

「うん。」

私を産んだ時から、母と父はだいぶ老けた気がする。15年もの年月が経ったのだから当たり前か。慣れ親しんだ家とも、しばらくお別れだ。

「じゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

「行ってらっしゃい。」

二人の目には涙が浮かんでいた。たぶん、私の目にも。でも、まだ振り返らない。私の目的を果たすまでは。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――今回は以上です。ちょっと短かったですが、区切りがいいので勘弁してください。魔王の知恵と力を使って、無双!!!みたいな展開を期待されている方もいるかもしれませんが、まだ先です。気長にお待ちください。














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