第2話 エレメンタルワールド・オンライン2

 西暦2021年12月25日15時30分/セーブ時間7時16分


 結局、自腹でVRゲーム機『テンジョウ』を買う羽目になった世界線航(せかいせんわたる)は、これからどうするかを考えていた。

 クリスマスプレゼントは結局、この『魔法道具デイライフ』のみとなった。

「まいったな、代償物は選べないのか。自分で指定出来たら良かったんだがな……」

 タダでループはさせてくれないことが判った。これだけでも収穫だ。


「とは言え、サスペンスをやるわけでも無いし。デスゲームをやりたい気持ちでも無い。ならば結局、ほのぼのゲームをやりたいと思うのは理に叶っている」

 ログ数はほぼ4900台で緩やかに減っている、一体どういう基準で減少するんだ? 秒数のカウントでは無いっぽいし。謎だ……。というかほぼ止まってるぞコレ……。

「そういえば学校ではほぼログが止まったままだったな、少しは動いたけど10桁台しか動かなかったし……」


 色々と謎があるが、それでは本番のVRゲームをやろうではないか。

「これが噂の『エレメンタルワールド・オンライン2』だな! よしやろう! ログインスタート!」



《EWO2へようこそ! チュートリアルを始めます!》


「あーいらないいらない、スキップスキップ!」


《チュートリアルはスキップされました、デフォルメ設定で『ギルド中央広場』へログインします! ようこそW様!》


 そうして、目的のゲームの世界へと初めて入ったW。

「おーここがゲームの世界か~……ん?」

 そう思っていたら、右手に握られていたのは。あの『魔法時計デイライフ』であった。

「げ、ゲームの中でもコレあるのかよ……!」


(てことは、この世界観でもループは出来るのか? お、ログが動き出した)

 本当にどういう原理で減ってるのか判らない、ただ時間じゃ無い事だけは確かだ。今度は5000ログ名一杯かギリギリまで使わないでおこう。などと考えていると。


「お、初期装備って事は君は新人かい?」

 話しかけてきたのは、頭上に〈H(イータ)〉と呼ばれる名前のプレイヤーだった。

 可愛い、めっちゃ美少女だった。

(まあ、これもキャラメイクで設定した仮初めの姿なんだろうけど)

 などと考えていたら。

「何から聞きたい? W(ダブル)くん」

 と優しく声をかけ続けてくれた、優しい子だ。

「よろしくH、じゃあ職業は何を選べるのかな? あとギルド名とか」

「おろ? いきなりギルド名の名前が出てくるのは珍しいね、何か名前のアテがあるのかいWくん?」

「そうだな、ギルド名はゲームする前から決めてて。ギルド『AtoZ』、エートゥーゼットが良いかな? とか前々から決めてたんだ」


「キミ~特撮系が好きだね~w」


「あはは! そうなんだよ~w てかわかるんだ」

「そりゃあこんなゲームやってる訳だし? 私だってちょっとしたオタクなわけなのよ」

 これは話が合いそうだ、ちょっとした音楽性の違いは。まああるだろうけど、それでも理解されると話が早い。

 Hは話の続きをした。

「んで? AtoZくんはどんな職業になりたいのかな?」

「ん~それがまだ決めてないんだ。でも除外するのは決まってる。二刀流剣士と魔法剣士と学者と黒魔道士、これ以外を探している」

「ん? まー理由は散策しないけど。ん~大剣を扱う両手剣士とか? ん~他にあったかなあ~」


(そういえば、デイライフでは。死んだら戻れないんだっけ? ゲームの世界だけど……)


 【2】死んだり死後の世界では、デイライフは発動できない。


(これがゲームの世界でも当てはまるのか微妙だ……ゲームの世界で死んだら、現実世界でも死んだことになって。その日1日はもうループ出来ないとか。変にリンクされてたら困る……。となると俺のプレイングは……)


「えっと、絶対に1回も死ねないタイプの職業とか無いですか?」


「え? 職業だと思い浮かばないけど。それって、HPか防御力か回避率の極振り系じゃない? それと、死にたくないなら近距離より遠距離の職業になると思うけど?」

(確かにその通りだ、近接戦闘で絶対に死にたくない。は無茶がある)


「何か思い当たります?」

「ん~……弓矢使いとか、投げた武器が戻ってくるタイプの槍使いとか。あとは回復特化の白魔導師、防御力だとタンクだけど盾役は近接職だし、ブーメラン、拳銃。回避だと忍者……」

 かなり職業の羅列を組んでくれた。ありがたい。

「ちなみにソロ? パーティ戦? どっち重視?」


(ループ前提だと、仲間との意思疎通は毎回説明しなければならず混乱と困難が待ち構えてそうだ……そうなると1人でも一応攻撃手段は持っておきたい。となると……)


「ソロになる可能性が高い。となると弓矢使いかな、やりたいのは」

 一応目的の職業は決まった。


 そして職業を選べる受付嬢の前で〈弓使い〉を選択。


「話し相手になってくれてありがとう! Hさん!」

「良いって事よ~んで? どう? 一緒にPT組まない?」

 Hの申し出は凄くありがたいが、ここはまず。独りで練習してみよう。

「折角だけど、弓使い。独りで練習してみるよ、まずは説明無しでちょっとモンスターと戦ってみる」

「ふむ、そういう冒険もいいよね~。いいよ、頑張りな~ギルド『AtoZ』さん☆」

 そういうわけで、Hさんとは別れた。

 

「いきなり色々と教えてくれるとは、変わった人だなあ~」

 などと考え込んでいる内に……。


「ログ数、2143/5000。か……まだ半分行って無い」

 ゲームの中でループをするのか、は。まだやったことが無いが、たぶん出来るだろう。という実験を終えた後の楽観視、軽視ともいうが。兎に角。

「4000ログ入ったらでループしてみよう。それからでも遅くないはずだ。……というか【7】の効果で何か代償を払うんだよな……今度は何を払うんだ? 皆目見当がつかねえ……」 

 などと考えながら、Wは実験もかねて、ザコモンスター討伐へと足を運んだ。


◆あとがき◆


 魔法時計『デイライフ』

 西暦2021年12月25日16時00分

 セーブ時間◇07時16分

 ログ数◇2143/5000


〈航のメモ〉

 ・VRゲーム機が代償物として無くなったので自腹で買った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る