4-4 黒い靄糸を辿って
屋敷の中から庭園へ出た瞬間、穏やかな陽の光がイツカを出迎える。
途中でキッチンへ立ち寄って受け取ったお見舞いのフルーツバスケットを手に、イツカは目の前にそびえ立つ離れを見上げた。
賑やかな印象のある表とは異なり、屋敷の裏手はしんとした静けさに包まれている。
本来であれば落ち着くものを感じる静寂なのだろうが、目の前にある離れの様子も相まって、不気味さを感じる落ち着かないものになっていた。
「――……」
ひどい状態になっているのは予想していた。
タニアから話を聞いた際、ローレリーヌの状態はあまり良くないだろうと考えてもいた。
だが、イツカの目に映った離れは黒い靄に包まれているかのような状態になっている。
見るだけでわかる。
ローレリーヌの状態は――イツカが予想していたものよりも、はるかに深刻だ。
自然と表情に力が入り、より険しいものへ移り変わる。
警戒や緊張が己の中に入り交じるのを感じながら、イツカは扉を開いた。
「失礼します……?」
離れの中は、人の気配がほとんど感じられないほどに静まり返っている。きちんと掃除がされており、照明器具にも問題はなさそうに見えるが、どこか薄暗いような印象さえ受ける。息を吸い込むほどに淀んだ空気が肺の中に入り込み、ずっしりと身体全体が重たくなるようだった。
目をこらさずともわかるほど、離れの外から内側まで黒い靄で満たされている。
ここは、呪詛の腹の中だ。
「……イリガミ様、もしものときはお願いします」
小さな声でイリガミ様へ呼びかけてから、イツカは離れの探索を開始した。
ざっと見渡す限り、離れは外見だけでなく室内も本邸と近い作りになっている。足元は落ち着いた色合いのカーペットが敷かれており、足音が響きにくくなるよう工夫されていた。使用人たちが主に使うからか、調度品も本邸にあるものより控えめなデザインのものが多く配置されている。
そっと覗き込んだ廊下にはずらりと複数の扉が並んでおり、多くの使用人が休めるようになっているのがひと目でわかった。
どこにローレリーヌがいるのか、ぱっと見ただけではわかりにくい。呪詛の気配や痕跡を辿ろうにも中まで黒い靄で覆われた室内では、痕跡や呪詛の気配を辿るのも苦労しそうだ。イリガミ様の嗅覚に頼ろうにも、フレーデガルを苛む呪詛と同じものなら匂いが紛れてしまって難しい。
これは、ローレリーヌの部屋を見つけ出すまでに結構な時間がかかってしまうかもしれない。
思わずため息をついたイツカの視界の端で、ふと。
「……?」
どこを見ても薄暗く、どす黒い靄で満たされた空間の中で、特に色濃い何かがわずかに動いた。
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