第2話 冬のある日のこと
その日は珍しく雪が降っていた。僕の住む地域では冬といえど年に数回しか雪は降らない。中一の僕は久しぶりの雪にはしゃいでいた。いつも通り学校に行くのに七時頃に起き、カーテンを開けた瞬間から外に飛び出すのが待ち切れなかった。
「琉華、ちゃんとご飯食べていきなさい」
母は朝ご飯を食べないと一日は始まらない、と思っている人で我が家では朝食なしの朝はなかった。
僕は慌ててバターの塗った食パンを口に詰め込み、学校指定の黒い鞄を掴んだ。
「いってきまーす」
「気を付けてね、雪が降ってるからってはしゃぎすぎないようにね」
「はーい」
きちんと返事を返しながらも僕の頭の中は雪のことでいっぱいだった。
玄関を飛び出すとキンとした冷気が肌を刺す。雪はパラパラとだったがそれでも珍しいことに積もりかけていた。僕はわくわくしながら通学路を行く。去年までは近くに友人が住んでいたため朝一緒に通学していたが、彼は中学受験をして私立に進んだ。彼は年齢の割には冷めた子供だったから、もしここにいたとしても僕みたいにわくわくはしないだろう。僕ももう中一。その辺りを行く小学校低学年児たちみたいに歓声を上げることはない。
僕は歩を進めながらもこの雪空の中をもっと長く歩いていたくて、いつもより遠回りの道を選んだ。もとよりこの時間なら学校には三十分以上早くついてしまうのだから、少しくらいいいだろう。
その道を進むと小さな公園に行き当たった。ブランコと滑り台があるだけの味気ない公園。早朝で誰もいないそこで僕はブランコに腰かけた。目の前を雪が舞い落ちていく。僕はこういう静かな瞬間が好きだった。まるで世界に自分しかいないようなそんな瞬間。空をしばらく見上げ、そろそろ学校に向かおうかと思い目線を前に戻すと。
そこで終わり。自分でも何が起こったのかわからない。そこで突然世界は暗転し、気付いたら病院のベッドの上だった。母や警察の人もいたけれど、僕は何が起こったのかわからなかったし、病院の人も誰も原因を突き止められなかった。
僕の身体に悪い所はなく、事故に遭ったということもない。
それでもその時十三歳だった僕にとって、突然世界から光を失うというのは受け入れられない事だった。特に原因が全くわからないとなると尚更だ。
僕はその日から家にこもりがちになり、結局ほぼ学校に行かないまま中学を卒業した。そして十六になった今、僕は高校に通うことも定職に就くこともなく過ごしている。
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