第8話 ピアス

「せんぱいー、これ買ってくださいよー」


「つかさー、これ買ってくれよー」


 長きにわたる二人のファッション対決に付き合わされた後、さらに服屋に入っていく二人にげんなりしていると二人揃って何かを見せてきた。


 こちとら四時間の着せ替えショーに付き合ってやったんだぞ…… 少し休ませてくれ、とは言えない。言ったらハルに殺されかねないからな。


 二人の手に握られているのはピアスだった。ハルが穴を開けているのは知っていたが白鳥さんも開けているとは少し意外だな。


「白鳥さんには引越し祝いと入学祝いってことでいいよ」


 ケチ、とハル。だってしょうがないだろ、こんなに目を輝かせてるのに断れないって……


 白鳥さんにピアス代を預けるとレジにすっ飛んでいった。すぐに帰ってくると僕が座っているベンチの隣に腰掛けて買ったばかりのピアスをつけた。


 鏡もなしにつけられるあたり、結構つけているみたいだな。


「どうですかせんぱいっ! 似合ってますか?」


 白鳥さんの耳には淡い青色で小さなひし形状のピアスが揺れている。少しだけ大人っぽすぎるかもと思ったがよく似合っている。


「似合ってるよ。大人っぽくて」


「じー」


 反対側から擬音を口から垂れ流しているハルがいる。ハルも買ってほしいみたいだがあいにく僕にはお金がない。


 万年金欠の僕を舐めるなよ。白鳥さんのピアスだけで今月はあと六十円なんだぞ。


「せんぱい、これお礼です!」


 白鳥さんはピアスが入っていた袋から何かを取り出して僕に渡してきた。ポチ袋くらいの大きさの紙袋だった。


「開けてもいいの?」


「もちろんっ!」


 言われた通りに小さな包装紙を開けていくと、


「これは、ネクタイピン?」


 銀色のシンプルなデザインのネクタイピンが袋には入っていた。ネクタイピンに好みとかはないが気に入った。


「せんぱいに似合いそうだと思ったのでつい買っちゃいました!」


 うちの学校はブレザーだしネクタイピンも禁止じゃないはずだ。デザインもオシャレだし早速明日からつけて行こうかな。


「ありがとう。大事に使わせてもらうね」


「いえいえ! せんぱいが気に入ってくれたなら私も嬉しいです!」


 白鳥さんはそう言うとピアスを揺らしながら立ち上がった。ふと外を見ると、もう茜色に染まってきていた。


「そろそろ帰ろうか」


「ですねー」


 すっかり静かになったハルを連れながら出口に向かう。ハルは後輩の相手をしていたせいか疲れてウトウトしている。


 足元がおぼつかない様子なので手を貸してやる。一応これでも幼馴染なもんで、言葉を発せずとも何をするべきかくらいは分かるものだ。


「サンキュ……」


「すっかりおねむじゃねえか」


 それに比べて白鳥さんは……


 僕とハルの前をスキップしながら歩いていやがる。どれだけの体力してんだよ。


 ちなみにハルは眠くなると素が出る。普通の女子と変わらないどころか少し甘えん坊になる。現に僕におんぶを求めてくるくらいには。


「流石に重いから無理」


「おぼえとけよー」


 その口から出る言葉に覇気がなくなっている。こっちの方が可愛げがあっていいと思うんだけどな。


 女子の考えていることはよくわからん。


「そうしているとやっぱりせんぱい方って仲がいいですよね」


「仲がいいっていうか、昔に色々あってな。兄弟みたいなもんだ」


 忘れもしない五年前、そして思い出したくもない五年前でもある。まあ、今は置いておいて。


「白鳥さんにも兄弟っているのか?」


 このコミュ力がどこから得られたものなのかも気になるし。


 彼女は少し首を傾げてうーんと唸ったのち、


「二個下に妹がいますけど…… うるさくてたまったもんじゃないですね」


 僕は歩みを止めて固まった。


 白鳥さんがうるさいだと……? ってことは白鳥さんの何倍もってことか!?


 考えても考えても想像ができなかったので諦めよう。きっと新幹線かなんかなんだろう。


「せんぱいは一人っ子ですよね?」


「うん。あれ、言ったっけ?」


「あ、勘です! やっぱりせんぱいは一人っ子って感じですもん!」


 何か濁された気がする。けど一人っ子ってことぐらい大家さんとかから聞いてるか。そう思い、本格的に寝始めたハルを背負う。


 みどり荘が見えてきたので僕はハルを送るため、白鳥さんと別れた。


 ハルの家はみどり荘から大体五分くらいの所にある。その隣の家が僕の実家だが帰る気はない。


「あらあら、ツーくんじゃないのー。わざわざ運んでくれてありがとねー」


 インターホンを押してハルのお母さんにも挨拶したところでハルの部屋に向かう。特に何も思うことはなく早く背中の大荷物を置きたい一心だった。


 ハルの部屋はまたも口調と裏腹に可愛いのだ。薄いピンクの壁紙にモコモコのオンパレード。


 そんな部屋にある可愛いベットにハルを投げ捨て、部屋を後にしようとするとズボンの裾を掴まれた。


「もうちょっと……」


 完全に寝ぼけているハルに捕まってしまった。しょうがないので部屋の床にあぐらをかいて寝るまで見ている事にする。


「んふふー」


 と、こっちを見て幸せそうな顔をしている。普段とのギャップのせいで怖いとしか思えない。


 はにかんだ寝顔を確認してから僕はみどり荘に帰った。






 いや、僕の幼馴染可愛いかよ!

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