第7話 ファッション対決③

「いいか白鳥さん」


「はい、何を言われても受け止めます!」


「ハルは壊滅的にファッションセンスがないんだ!」


 僕は白鳥さんにハルの秘密を打ち明けた。


「そ、そうなんですか!? でも、今着ている服は可愛かったですよ?」


「あれはハルの妹が選んだものだ……」


 ハルは本当にセンスがない。本人はそうは思っていないのがまた悲しいところだろう。


 ハルには五個下の妹がいる。まあ、それは置いておいて。


「だからどんな服を選んできても驚かないでやってくれ」


「りょうかいです!」


 それだけを伝えて、僕と白鳥さんは店の外のベンチに腰をかける。服選びには時間がかかるだろうし、白鳥さんはさんとゆっくり話す機会にはもってこいだった。


「あのさ、白鳥さんと僕ってどこかで会ったことがある?」


「……なんでそう思うんですか?」


 何か含みのある答え方だったが、構わず僕は続ける。


「昨日といい、今日といい距離感が少し高い気がしてさ。もしかして僕が忘れてるだけで、ずっと昔に仲がよかったんじゃないかな、と」


 昨日からずっと感じていた違和感。これを解消するために僕は白鳥さんに投げかける。


 ただ、僕の記憶の中に白鳥さんらしき人はいないはずだ。


「何を言ってるんですか、せんぱい? 私とせんぱいは昨日が初対面ですよ?」


 白鳥さんは苦虫を噛み潰したような顔をしたあとに、わざとらしい作り笑顔でそう言った。


 もはや言葉と態度に出ている。絶対に以前会ったことがあるのか。


「そっか。勘違いだったか」


 ダメだ、いくら思い出そうとしても白鳥さんらしき人は一向に思い出せない。 


 しばらくの沈黙の後、白鳥さんから口を開いた。


「そんなことよりせんぱい! ハルせんぱいの様子でも見に行きましょ!」


「おう」


 沈黙に耐えかねたのか、僕に気を使ったのか、白鳥さんは立ち上がり僕の手を引いて店に戻る。


 なんの抵抗もなく僕の手を引くあたり、やはり距離感に疑問を感じる。


 ただ、白鳥さんの手に触れていると、何か思い出せそうな気がする。


「あ、いましたよせんぱい!」


 白鳥さんはハルを見つけると手を離し、ハルの方へと向かっていった。それと同時に僕は、何か思い出せそうだった記憶に霧がかかってしまった。


 ハルはというと、デカデカと胸にクマが印刷されたTシャツと、背中にウサギが数匹いる意味のわからない服とを見比べていた。


「ハルせんぱい?」


「なあ、舞ちゃん。コレとコレ、どっちがいいと思う?」


 ハルの質問に白鳥さんは固まった。まあ、無理もないだろう。こんなの誰でも選べないって。


 白鳥さんも必死にハルを傷つけないように、返答を考えているようだ。やはりいい子だな、白鳥さん。


「ハ、ハルせんぱいにはこっちの服とかが似合いそうですね!」


 あ、逃げた。


「お、それもいいな! じゃあそれにするわ」


 そう言ってハルはレジに向かっていった。


 ちなみに白鳥さんが選んだのは、少し大人っぽいブラウスだった。黙って着ていればハルでも似合いそうなもので、とっさに選んだというのに凄いなと僕は思う。


 ブラウスを買ってご満悦のハルはすぐに着たいらしく、試着室に入っていった。


「どうだ司、見惚れたか?」


「おお、普通にいいじゃん」


 数分してブラウスを着たハルが出てきた。やはり口調とは合わないが、見た目には合っていると思う。


 心なしか選んだはずの白鳥さんまで目を輝かせてハルを見ている。


「そンじゃ、司。アタシと舞ちゃんのどっちがいい?」


「そうですね。それだけはちゃんと白黒つけましょう!」


 二人ともファッション対決ということを忘れてはいなかったようだ。


 店の外で美人二人に詰め寄られるようにしているためか、周りからの視線も痛い。それにどこかから「なにー? 修羅場ー?」などという声も聞こえてくる。


 ひとまずここは場を収めるためにーー


「二人の勝ちってどうかな……?」


 ここは市内有数のモール、それに日曜日の昼のはずだ。それなのにあたりはシーンと静寂に包まれた。


「やっぱり司は司だな」


「これがせんぱいクオリティでしたね」


 二人はからは深いため息をもらい、僕は頭にクエスチョンマークを浮かべながらしばらく固まることになった。

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