第4話 二人との買い物

「うわぁ、こんな大きい建物初めて見ましたよ」


 上を向き、口を開けて驚いているのはワンピースに身を包んだ白鳥さんだ。その隣には半袖のプルパーカーを着たハルもいる。


 そして僕もいる。いや、なんで僕がついて行かなきゃいけないんだ?


「なあ司、ちょうど夏服が欲しかったところなンだよ。選んでくンねえか?」


「ずるいですー! それなら私にも選んでくださいー!」


 後輩と幼馴染に詰め寄られているという状況は嬉しい。しかし何故か嬉しいよりも先に面倒臭いと思ってしまう。


 それにセンスのかけらもない僕に服選びをさせるのが間違っている。


「あの、ハル? 帰っちゃだ」


「懐かしいな、十二年前の六月に司がーー」


「ストップ! 付き合うから! 服選びもちゃんとするから!」


 危うく僕の恥ずかしい話が後輩の耳に入るところだった……


「それでこそ司だよな」


 脅されて渋々付き合わされる身にもなってくれよ……


 僕は肩を落としながらはしゃぐ二人の後に続くようにしてショッピングモールに入ってしまった。入るとともに気になるお店に入っていく二人。


 後に続くように店に入るが、アクセサリーや小物ばかりで僕には何が良いのかわからない。けれど二人はアクセサリーを手に取って、あれが良いだのこれがいいだのと楽しそうに話している。


 楽しそうで何よりだが暇でしょうがない。僕はお店の前にあるベンチに腰掛けてぼーっとしていることにした。


「せんぱい? 楽しくないですか?」


 薄いピンク色の袋を持った白鳥さんがお店から出てきてそう言った。


「二人が楽しそうにしているのをみるのは楽しいよ」


 一応本当のことを言ってみたり。


「えへへっ、なんか照れちゃいますよ」


 白鳥さんは少し頬を赤く染めながらそう言った。照れている顔を見ているとこちらまで恥ずかしくなってくる。


 そうしてお互いにいい雰囲気だなと思っていると、


「どうしたンだよ二人とも。なンか妙な空気だけど」


 後ろにハルが立っていた。ハルの手にもピンクの袋が握られていた。


 何を買ったのかは特に気にならなかったが二人がソワソワしているのに気がついたので聞いてやる。


「それでお二人さんは何を買ったんだ?」


 僕がそう言うと水を得た魚のように顔を明るくして距離を詰めてきた。


 うっわ、わかりやす……


 「私はこれですー!」


 ものすごい笑顔で袋から小さな小瓶のようなものを取り出した。


「これは……香水?」


「正解ですっ! さすがはせんぱいですねー」


 見た目的にそれしかないと思っただけなんだが……


 どう言葉を返していいのかわからずにいると、


「女の子相手にその反応はないわー」


 とハルにド直球に言われた。


 しょうがないだろ、まともに女の子と会話したことなんてないんだから。


 ちなみにハルは女の子ではない。もはや双子みたいなものだ。なので意識どころか女子としても見えない。


「ハルは何を買ったんだ?」


「アタシはこれだよ」


 ハルが袋から取り出したものはーー


「なんだこれ」


「なんですかね、これ」


「おい、お前ら」


 何か網状の何かだった。僕には何かさっぱりわからない。白鳥さんもわかってないみたいだしどうせ変なものだろ。


「これはアレだよ、アレ」


 やけに渋るあたり何か言いにくいものなんだろうか。そう察した僕はハルの方に手を置き、


「言いにくいなら言わなくてもいいんだぞ。欲しいものは人それぞれだからな」


「ちょ、ちげーよ! これはただの洗顔用のスポンジだ!」


 なんだ、てっきり趣味かなんかで網タイツでも履いているのかと思ったぞ。


 さて、冗談はさておきどう反応したものか。可愛い買い物するじゃんと言えば殴られるだろうし、八方塞がりに近い。


 ここは無反応で流しておこう。


「おい、なに反応に困ってンだよ。あ? 悪いか? アタシが可愛い買い物しちゃあ」


「違うぞ!? 可愛いとか言えば確実に殴るだろ? だから気を使ってだな」


 こうした喧嘩じみたいつもの会話をしていると、


「うふふっ。せんぱいたちを見ているとなんだか夫婦漫才を見ているみたいです」


「「なっ!?」」


 ここでもタイミングよくハモってしまった。


 「もしかしてお二人は付き合ってたり……?」


 「「ない!」」


 あ、だめだ。これ以上喋ってもあらぬ誤解を増やしてしまうだけなので黙る事にした。


 僕とハルはお互いにそっぽを向くようにして距離を取る。そしてその間を白鳥さんがニヤニヤしながら入り込んできた。


「じゃあ次行こうか」


 とりあえずこの場をどうにかすべく二人を別のお店に行かせる事にした。


「あ、そうだハルせんぱいっ! カモせんぱいに服を選んでもらうのどうします?」


「そういえばそンな事言ってたなぁ。じゃあこうしようぜ!」


 ハルは白鳥さんに耳打ちで何かを伝えている。僕にはもちろん聞こえるわけもなく、何をするのか気になる。


 二人で何かをする分にはいいのだが僕に迷惑がかからない程度でやってほしい。


「ってことで司! アタシたちがファッション対決するから審判よろしくな!」


 はい、面倒ごとが舞い降りてきましたとさ。

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