二章 6

 ルーカスたちが何も言えなくなった後、シャルロットは薬の使い方を説明し、ロケットをマリアに渡した。部屋にいた全員が去り、重い体をなんとか落ち着けているうちに夜になった。

 首から下げたロケットを眺めながら、娘の様子を思い出す。

 去り際、打ちのめされたような様子だった。

 母として、長く見てきたからこそわかる。シャルロットの表情は確かに薄いが、感情がないわけではないのだ。

 ルーカスやヨハンは自分を気にかけて気づかなかったようだが、横にいたカイエンは悟っていたようだった。

「不器用な子ね。ブリジットに少しでもその繊細さを分けてあげればいいのに……」

 辛くないはずがないのだ––母に死の可能性を告げることが。


 窓の外は月が高く輝いている。雲ひとつかかっていない、綺麗な夜空だった。

 静かな夜だ。

 静謐さが逆に耳に痛いくらいで、虫や小鳥の囀りすらも聞こえてこない。

 予兆と予感があった。

 深く息を吐き、身構える。緊張せざるを得なかった。

 あらゆる恐怖が湧き上がってくる。死や後遺症、薬の副作用、薬が効かなかったとき——シャルロットがそれらを説明してくれていた。

 けれども、教えてくれて良かったとマリアは思う。何も見えぬ暗闇には耐えられないから。


 そして、マリアの胸を痛みが襲った。

 体の内部を握り締められるような痛みに、意識を失いかける。

 歯を食いしばり、掌に爪が食い込むほど手を強く握る。

 仮に死ぬとしても、薬すら使えずに死ぬなど許せるはずがない。なかば意地で手を動かし、胸のロケットを手に取った。


 震える指でロケットを開き、中に収められていた薬をあおる。

 神ではなく、愛する娘の顔を想って祈った。

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