一章 6

 もはや疑うことはない。シャルロットは前世の記憶を持っている。

 この世界のどこにもなかった高度な技術を、その身に宿している。

 おそらく未だルーカスにすら話していない、膨大な知識と技術を持っているだろう——今回の対策のようなちょっとした手段から、ルーカスには理解できないような高度なものまで。

 彼女の世界とは、どれほど高度な技術のある場所だったのか。

 ルーカスは畏怖すら感じる。


 ふと、窓から庭を見下ろすと、御用商人の息子であるカイエンがシャルロットに連れられていくところだった。

 カイエンは黒髪黒瞳の珍しい風貌で、すらりとした長身の少年だ。

 平民だが商人の父がアインドルフ家と付き合いが深く、幼い頃からよく父商人にくっついてやって来てはシャルロットと遊んでいた。

「いや、あれは遊んでいたのかな……? どちらかというとシャーリーに引っ張り回されていただけの気もするな」

 昔からわりとよく見る、馴染み深い光景だ。

 シャルロットはカイエンと実験とやらをしていると言っていたが、もしや、あれがそうなのだろうか。

 であれば、カイエンにも話を聞いてみたいものだ。

 シャルロットは今回の件に関しても、必要以上のことは口を噤んでいた。実験に付き合うカイエンならば、何か他にも聞くことができるかもしれない。

 ——シャルロットの言う、科学と医学について。


 思考を書類に戻す。

 紅茶を飲み干し、政務に集中し直した。

 流行り病は沈静化しつつあるが、油断はできない。ここで再度拡大してしまうようなことがあれば、せっかくシャルロットが自らの秘密を明かした価値が薄れてしまう。そんなことになれば、父としても宰相としても許せるはずがない。


 しかし、頭の片隅からは離れない。

 もしもシャルロットの知識と技術が存分に活かせたのであれば、一体どれだけの民を救うことができるのだろうか、と。

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