一章 1

 思えば、産まれたときから少々変わった娘だった。


 ルーカスは目前に立つ少女をぼんやりと見つめていた。

 シャルロット・アインドルフ。

 妻マリアとの間に産まれた愛すべき次女である。

 ルーカス譲りの金髪碧眼にマリアの血を色濃く継いだ目鼻立ち。すらりと伸びた手足と姿勢の良さで身長が高く見える。細身だが痩せ細っているわけではなく、しっかりとした女性の曲線美を兼ね備えている。おそらくは母の血によるものだろう。

 若干表情が薄いものの、静かな光の瞳が歳に似合わぬ知性を感じさせる。

 幼いころから妙に落ち着いた子で、いたずらや我儘はほとんどなかった。むしろ大人顔負けの思慮深さに驚かされた。貴族の誇りというべき魔法の才能にはあまり恵まれなかったものの、それ以外は問題がなさすぎて逆に心配になったほどだ。

 無論その程度で愛情を与えられなくなるほどルーカスもマリアも狭量ではない。他の二人の子と同様、大切に育ててきた目に入れても痛くない可愛い娘に違いない。


 そんな娘から折り入って話があると言われれば、多少無理をしてでも時間をつくることはルーカスにとって当然だった。頭を悩ませる課題は解決策もすぐには思い当たらず、一息いれるのも必要だった。ちょうど良いタイミングとも言えるだろう。

 しかし、書類を片付けて娘を執務室に招き入れたところで、発せられたシャルロットの第一声は抱えていた問題を吹き飛ばすほどの、あまりにも突拍子のないものだった。

 

「父上、私には前世の記憶があります」——と。

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