第52話

島への行き方は豪華な船だった。

しかし、大きさに似合わないたったの10人の乗船。

ゲート・カーの参加メンバーは高城さん、上代さん、火蓋さん、岩倉さんの4名だ。


「一真、今日はよろしく!」

「ああ、よろしく!」


二人が笑顔で暑い握手を交わす。

しかし、二人とも中々手を離さず、一ノ瀬社長の額には血管が浮かび上がっている。


「なんか痛いよ。一真。」


「これまでの私の精神的苦痛に比べたら遥かにマシだと思うよ。」


「いいじゃない。二番手。」


頭の血管が切れるかと思うほど一瞬、浮かび上がると一ノ瀬社長は手を引いた。


「さあ、みんな乗って乗って。

この後、マスコミの方々も乗船するから姿はあまり見せないようにね。

一部界隈じゃあ、この大会でギャンブルしてる人達もいるくらいだからさ。

囲まれると始まる前から気づかれするから基本着くまではルームサービスを使うといい。

それと、晶。これが君のジャケットだ。」


黒いジャケットと黒いズボンに黒い靴、そして、白色のシャツが入った透明の袋を手渡された。

その全てにCWのブランドマークが記されている。


「全て、A級以上の素材で出来た服だ。

余程の攻撃でない限りは破れないし、ダメージもかなり軽減してくれるはずだ。

これで、君の魔法をフルに活かしてみて。」


「……わかりました!」


ダメージを気にせずに魔法の吸収にチャレンジしてみろと言う事だろう。

この前の戦いで相手の魔法を吸収できた。

魔力で出来たものなら吸収可能だと言う事は訓練でわかっている。

後は実戦で確かめていくだけだ。


「それと、後で皆んなで記念撮影しようよ。

皆んな同じ服装で写真とか惚れ惚れするんだ。いいよね!ね!!」


「後でどうせ、マスコミに取られるからいいでしょ。」


「プライベートで撮るのとは違うじゃない。

ほら、個人的な写真はさ、僕の趣味を曝け出せれる素晴らし--」


「ほら、晶と心。早く乗りなよ。

マスコミに囲まれても知らないわよ。」


ゲート・カーの人達は既に乗船し、新垣と四谷も船内に消えていく。


「霜崎さん。行きましょうか。」

「はい。」


ショックのあまり、地面に伏している黒田先生はどうしたものかと思ったが乗り遅れる事はないだろうと船内の割り当てられた部屋に歩を進める。


「心さん。今日はお願いします。」


「はい。こちらこそ。それと、目上の人にさんとか呼ばれると気がひけるから呼び捨てにしてもらえませんか。敬語もなしで。」


「わかった。」


前も四谷に矯正されてから敬語のありとなしの切り替えはスムーズに出来た。

それでも、格上の人に敬語を使わないのは居心地が良くないのが本音だが慣れるだろうと敬語なしを意識する。


「今日、囮役ですが大丈夫そうですか?」


「まあ、出来るように頑張るよ。

ただ、俺が倒される前に魔石を倒して欲しいかな……。」


「が、頑張ります。」


心は俺に敬語を使うなと言ったが自分は敬語を使っているところが凄く引っ掛かる。


「心。出来ればそっちも敬語は--」

「無理です!」


即答で拒否された。

想像以上に早い返事で「あ、あ、そう。」っと素っ気ない言葉が漏れる。


「じゃあ、俺は先にミーティングルームにいます。」


「わかった。着替えたすぐにいく。」


船内の十字路を心は真っ直ぐ行き、更衣室へと足を運ぶ。男のパネルを見て、中に入るといくつかの部屋が用意されその一室にはいり、服を脱ぐ。

改めて、クローズワークスの服を眺め、それに身を包み鏡の前に立つ。


「よし!」


特に違和感もない、心地のいい服。

動きにくさも特になく、ベルトを締めるとより気が引き締まる気がした。

刀の入った袋を肩に掛けると今から戦うのだと思いがより強く意識が研ぎ澄まされる。


「お、よく似合ってるね。」


更衣室から出ると黒田先生がいた。

立ち直ったのかカメラを構えて、シャッターを切る。


「違和感はない?

スリーサイズも完璧に合わせて、100パーセントの着心地を提供したつもりだけど。」


「はい、とても良いです。」


「それは、よかった。

それじゃあ、最後の作戦会議だ。

皆んなの待つ、ミーティングルームに向かって。僕はマスコミの相手をしなくちゃ。」


「大変ですね。」


「そんな事ないよ。

君達のサポートを完璧にこなすのは僕のやるべき事だからね。そのためにも重鎮達に言う事聞かさないといけないし。」


「いつも、ありがとうございます。」

この服も刀も今身につけている技術もそうだが、この人には感謝しきれない事がたくさんあった。だからか、ふとそんな感謝の言葉が漏れる。


「格上が相手ですけど頑張ります。」


「うん。君達ならいい戦いしてくれると信じてるよ。先に行っている3人にも伝えといて。

多分、試合が終わるまで会えないからさ。」


「わかりました。」


心と別れた十字路。

俺は3人のいるところへ向かうがなにやら奥でシャッターや声が響く方向へ黒田先生は手を振って向かっていく。


「晶。頑張ってね。」


シャッター音が響く中で確かに鼓膜に響いた声。そして、黒田先生はシャッターの光の中に溶けていった。

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