第51話

「はい!では、大会について説明するよ!」


今日は集められた場所は訓練場ではなく、ミーティングルームだった。

部屋は暗く、白い壁紙にパワポで作られた資料が転写させられている。

この場には俺と四谷、新垣、心さん、北川さんと黒田先生の5人がいた。


「ルール説明が始めるよ。大会参加人数は四人。先に相手の魔石を破壊した方が勝ち。

場所は南沖にある孤島で行われる。

ルールは異常だよ。」


大会は月見さんとか8人以上で武道大会と言うからには一対一で戦って行くものかと思ったが違うらしい。


「面積は10平方キロメートル。

始めての晶は広いと感じるでしょ。」


「はい、とても。」


「まあ、やってみるとわかるけどハンター同士がドンパチやるには丁度いいかむしろ少し狭いと感じるよ。四方八方から魔法が飛んでくるしね。」


「それは、社長を潰そうと皆んなで襲うって相手の作戦だからでしょ。

というか今回、参加人数少なくないですか?」


「ちょっといろいろあって本島からハンターを割けないんだ。だから、本当に鍛えて上げたい4人で参加させる。

まあ、合計8人が僕が死にかけてる人を一瞬で回復させられる限界っていう理由もあるけどね。」


「あの、死にかけって結構酷くなるもんなんですか?」


恐る恐るそう尋ねてみた。

ハンター同士とはいえ、同業者同士なのだからお互い手加減をしてやる物だと思っていた。


「ああ、死にかける人はたまに出るぞ。

まあでも、近くに回復してくれるハンター達が配備されているから問題ないんだ。

やり合う時はそれなりに抵抗あるみたいだけど。」


「でも、手を抜くと本当に痛い思いするから気をつけてね。

今回、初参加の晶と心は特にね。

対人戦まだ、二人とも慣れないでしょ。」


その言葉は俺にも向けられているが主に心さんに向けられていると感じた。

普段、結構殴って、蹴ってくる人が対人戦に慣れていないとは。

心さんは「アハハハ」っと笑みを浮かべている。


「その感覚は早く取り払いなよ。

ゲートをクリアするために他者と合同して組む時とかにたまに殺人鬼混じっている時あるから自分の身を守る為にも慣れた方がいいよ。」


「でも、やっぱり、人を傷つけるのは気が引けます。」


「私達の訓練の時は殴ったり蹴ったりするじゃん。なに?私達は殴れて他の人は殴れないってどういう要件よ!!」


詰め寄り、心さんの襟首を掴むと上下左右に鬼のような顔をして、大きく揺らす。

戦いのスイッチが入れば別だが普段こういう暴力事になるの「ひぃぃー」っと17歳の少年の情けない声が漏れる。


「く、訓練の時はちゃんと防御体制が整ってから手を出してるから大丈夫かなって思ってて--」


「大丈夫じゃねぇよ!すげぇ痛いぞ!

それにだ!襲ってくる相手は基本敵だぞ!」


「それでも--」


「でも、じゃねぇ!

相手が痛い思いするのと自分が痛い思いするのどっちがマシだ?

相手が痛い思いしてくれたほうが数百倍マシに決まってんだろ!!」


「葵。そろそろ降ろさないと心が失神するぞ。

顔が青くなり始めてるぞ。」


「あ、すまん。」


襟を離すと心さんは咳き込む。

悪気はなかったのか「すまん」っと何度か言いながら、背中をさする。


「大丈夫です。」


「やり過ぎたことは謝る。

でもな。敵と見たらそれが例え人でもやらないと辛い思いをするのは心だし。

心が苦しめばお前の周りの奴らも苦しい思いをする事をわすれんなよ。」


「……はい。」


二人が席に着く。

本当に悪いと思ったのか新垣は苦虫を噛んだような表情をしていた。

心さんは怒られてかしょんぼりとした表情をしている。


「コホン!じゃあ、話の続きだ。

今回の合同訓練についてのそれぞれの課題。

わかっていると思うけど一つは魔法の技術力の向上。二つ目は対人戦の慣れ。

三つ目はチームとしての力を高める。

この三つをうまくやったらぶっちゃけ負けていい。まあ、三つをうまく出来ずに勝てる相手では無いと思うし。

ゲート・カーは本気で勝ち星を狙いにくるよ。下手すると一瞬で死ぬ。

いくら僕でも木っ端微塵の死体から生き返らせる事はできないからね。

これから、君たち四人で話し合うといい。」


そう言い残して、黒田先生は部屋から出て行った。話し合うと言ってもどんな事を話せばいいのか。


「まあ、取り敢えず相手が誰が来るかは大体予想できるし、それを参考に作戦を練ろう。

勝つ鍵になるのは心の機動力と霜崎の特異な魔法だろうな。」


「問題は高城さんね。

C級の私達じゃあどうにもならないから心を当てたいけど他の人もB級以上でしょ。」


「ああ、戦力差は絶望的だ。

そこで、霜崎だ。上代さんのセンサー型の魔法がばら撒かれるだろうから片っ端から潰していけ。そこに注意をできるだけそらす。」


「囮役ってわけだな。」


「そうだ。霜崎が魔法を潰し終えたら俺達は相手の魔石を砕きに動く。

潰し終えたら合流する形にしようと思う。

途中で相手に見つかってもなるべく戦闘は避けろ。一対一じゃあ、まず勝ち目は薄いからな。」


「わかった。」


ただ、B級以上の敵から上手く逃げられるだろうか。力も速度も間違いなく相手が上だ。

自信がない事を言っても仕方がないから口を紡ぐ。


「おそらく、注意深く霜崎に二人くらい手を回してくる。

霜崎の前の街中での戦いは動画でアップロードされている。必ず警戒してくるはずだ。

逃げられないと思った連絡をくれ。」


「……わかった。」


逃げ切れる自信が完全になくなって肩を落とす。多分、真っ先に脱落するのは俺だ。


「ただ、そっちに二人引っ張られたらこっちは三対一に持ち込める。

心と高城さんが戦っている間に俺と葵でもう一人を倒して魔石を砕くのが理想だ。」


「……そう、うまくいくかしらね。

まあ最悪、心に特攻させればいいか--」


「良くないよ!!

高城さんに撃ち落とされるよ!」


「情けないわね。

あの白い魔法で一発で締めればいいじゃない。死にかけても社長がいるから大丈夫よ。

死にはしないわ。」


「無茶苦茶だ。」


「まあ、最終的な作戦としてはありだな。」


「酷い!」


心さんはこの世の終わりのような表情をし、青ざめて机に顔を伏せてた。

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