第36話
サイレンの音が近づいてくる。
少し離れた、場所で音が止まるのを感じて巻き込まれた人達が救急車に運ばれたのだろうと思って安堵の息を吐いた。
「ごめん、逃したか。」
ただ、それを引き起こした奴らは逃してしまった。
だが、次は……
視界が霞む。
瞼に重りがつけられたかのように下に、そして体も地面に吸い寄せられる。
……アレ、動かない。
手足の感覚はあるのに動かそうとするが指先一つピクリとも動こうとしない。
そして、急激な脱力感。
俺達を最初に襲った奴の魔力は膨大だった。
ソイツの魔力を吸収して、それが体から急激に逃げていっているからだろう。
吸収した力と素の力の落差が激し過ぎるあまりに起きる反動。
まだ、力を完璧に使いこなせたわけではない。
これから練習が必要だと思わされる。
それに、あの男の魔力を吸収していなければアルという奴には一方的にやられていたのは俺だ。
素の力を持っと鍛えないといけない。
だが、今は寝かせてくれ。
冷たいコンクリートが戦闘後で熱くなった身体を冷やしていく。
「霜崎さん!」
遠くで懐かしい声が聞こえてくる。
ゲートの中で何度も聞いたことのある声。
俺の命を何度も救ってくれた人の声だ。
どうしてここにと思ったがコンクリートの冷たさが気持ち良く、俺は微睡に落ちて行った。
名前を呼んだのに返事はなかった。
その人は怪我をし、血が滲んだジャージを着てその場に倒れていた。
死んでしまったのかと思った。
急いでその体に触れた。
「ああ、よかった……--。」
脈もある。息もしている。
見た目以上に怪我も酷くなかった。
回復魔法をかけると傷だけは直ぐに消えた。
ただ、魔力の枯渇は私にはどうしようもない。
「日和さん。晶の調子はどう?」
黒田社長がそこにいた。
黒いスーツは土埃が付いているものの本人は無傷そのものでピンピンしている。
「魔力が枯渇しているようです。
命に別状はないかもしれませんが当分は起きないかと思います。」
「そうみたいだね。
晶の急激な魔力の高まりを感じたから任せてはみたけどまだ無理があったか。」
まあ、それでもA級、下手したらS級に届くかもしれない相手によくやったよ。
素の力はまだまだ足らないのに。
でも、今回の戦いで経験も魔力も一皮剥けたかな。
「傑と葵の調子はどうだった?」
「2人はただ気絶していただけでしたのでもうすぐここに来ると思います。」
「そうか、皆んな無事でよかった。
巻き込んでしまった人達は心に傷を負うかもしれないけどさ。」
「やっぱり社長があの場の全員に回復魔法を掛けていらっしゃったのですね。
周りの破壊された景色と巻き込まれた一般市民の怪我が不釣り合いでしたので。」
「まあね。やられたと思った瞬間にあの場の全員一斉に掛けたよ。
それでもね。魔法の王と言われた僕の目の前にいたのに心に傷を負わせしまった。
まったく、情けないよ。」
「本当だよ。
魔法の王って言われて聞いて呆れる。」
「他人に言われるともっと傷つくよ。
お前は遅れてきたのに偉そうに言うなよ。
なあ、一真。」
「これでも、通報があって直ぐに掛けたさ。
まあ、後の祭りみたいだけど。
一応、光ちゃんに敵を探してもらってる。」
「やめときなよ。
光ちゃんには荷が重い。
今すぐに引き上げさせろ。」
「自分の部下には戦わせたのにか?
しかも、この子はいいとこBかC級だろ。」
「この子は別だよ。
心と並ぶ、僕の1番のお気に入り。」
その、もう1人のお気に入りは? っと聞こうとするが辞めた。
辺りを見渡し、気配を探るが心は見当たらない。
状況を察するにまだ帰ってきていないか。
……何をやってるんだか。
「早く、あの子を戻しなよ。
ここに強者達が集結してきている。
彼の力は必ず必要になるよ。
絶大な攻撃力と広範囲の防御の魔法を兼ね備えた彼の力が。」
「そう思って、もうメールを送った。
それに最近の検査でS級に昇格したみたい。
本当に心強いよ。そして、これでゲート・カーにS級の人数は並んだよ。」
人差し指をドヤ顔で向けられる。
「光ちゃんにはまだ及ばないよ。
あの子も日に日に強くなってる。
心には負けないさ。」
「言ってろよ。」
早く帰ってきて見たいな、心の力。
彼がどれほどの力を今得ているのか。
肩を並べて戦うのが楽しみで仕方がない。
サイレンの音が近づいてくる。
「お、救急車が来た。
まあ、心配はいらないと思うけど。
ありがとね。晶の傷を治してくれて。」
「いえ、当たり前の事をしたまでです。」
「彼女は?」
「うちの新しい新人社員さ。」
「今年は珍しく2人も取ったのか。」
「まあね。豊作さ。
変わった力を持つ人が増えて僕は嬉しいよ。
このまま、奴らと対等に戦える戦力を揃えたい物だよ。」
「対等に?」
黒田にしては珍しい言葉を使った。
いつも自分の会社が自分が頂点だと言わんばかりだが、今回の言い回しは遅れをとっていると言う意味が取れた。
「そ、相手の戦力は未知だけど。
もし、あの強さが十数人もいたら負ける。」
「お前でも厳しいのか?」
「僕、個人が負ける事はない。
けどね。人が1人殺されたら僕の辞書では負けなんだよ。
だから、もっと力をつける。つけさせる。」
この場にいない社員と救急車に運ばれていく1人を見て、それを言う。
……強くなろう。皆んな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます