第35話

真夜中にビルの上を建物の上を走り、跳ぶ、二人組の姿があった。


「結局、俺が戦ってたよ。」


「すいません。力不足で。」


「いいや、油断があったとはいえ黒田に1発当てられたんだからよくやった。

俺なんか一発も入れれなかったよ。」


「いえ、エシーさんが本気を出せば勝てなくてもいい勝負できますよ。」


「ははは。」

若い奴に気を遣われる時は本当に歳を食ったと思わされる。

本気を出して、一発どころかボコボコにされていたなど口が裂けても恥ずかしくて言えない。


「取り敢えず、黒田の強さはわかった。

あの目はやはり危険だ。俺の権能も能力までは見破られなかったが完璧に塞がれた。

本当にこれはペルビアに頼むか、俺の霊章を解放するしか手がない。」


人の身でよくもあれほどの力を短時間で。

魔法の王ってより、魔法に愛された子だ。

魔力と魔法が黒田に喜んで力を貸しているようにさえ見える。

思い返してもペルビアの奴と本当にそっくりだ。


「魔法ってやつは余程自由な人を好むらしいよ。ペルビア。」


この場にいない、この地球のどこにいるかもわからない奴に投げかける。


「早く帰ってくるといいですね。

ところでなんですが……。」


「なんだ?」


「なんで、フルチンなんですか?」


言われると思っていたがこの状況で言われるとは思ってはいなかった。

俺の下半身をみて、この速度で走って跳んで、その間にヒタヒタと揺れているそれをまじまじとアルは見ていた。


「恥ずかしくはないんですか?」


「うるせぇな。

黒田の奴に下半身吹っ飛ばされたんだからズボンとパンツないんだよ!

後でルクリアに頼んで買ってもらうから!」


自分の想像以上のクズな発言に落ち込む。

いつから、年下の女性に金をせびるようになったのか。


「はぁ、情けないったらないな。」


「お金のことでしたら黒田とかみたいに会社作ったらどうですか?一万年前のギルドみたいで楽しそうじゃないですか。」


「あー、それはありだな。

今の社会では怪物共の素材の売買は会社に登録するかハンター協会に登録しなきゃいかんらしいからな。

この世界はあの門の中のものがかなり高価に売れるみたいだし。

それにまだ、見つかっていない仲間を見つけるにも丁度いいしな。」


ZEROの霊章の封印は強い奴ほど強く影響が出た。俺達の中で一番強いペルビアが最近目覚めたのもそれが理由。

仲間達がまだ見つかっていないのはどう行動していいか分からず門の中で閉じこもっているかどこかで身を潜めているからだろう。

一万年のギルド名で会社作ればまた集まってくれるだろうか。


「なんだか、今からでもワクワクします。

それと、なんですがエシーさんの言ってたグーラ先生の気配がする人なんですけど。」


「あの、中途半端に権能が目覚めてた奴か。

何かあったのか?」


「はい、権能が覚醒してました。

僕と同じと言いたいところですけど僕より強い権能を持っています。魔力の取り合いで押し負けました。」


「……本当か?

だとすれば、グーラの奴も見つかったかもな。」


グーラはバラバラにされた。

しかし、グーラの存在を定義つける核のような物が存在する。

それを封印し、宿した人間がいると思っていたがあの子がそうか。


「ただ、先生の気配の隣で霊神の気配もしました。封印をこじ開けた時、どちらが出てくるかが問題です。

下手をすると先生の力を宿した霊神が出てくる事も考えられます。」


「……それはまた、一段とめんどくさいな。

あのジジイに目覚められるのは是非とも勘弁してもらいたい。

何回、ゲンコツもらったかわかんねぇよ。」


何度も殴られた頭の部分を撫でる。

思い出したも鳥肌が立つ威力だった。

頭が凹んだり、これ以上馬鹿になったらどうするんだとか思った。


「グーラの奴を返してくれないもんかね。

つーか、あのジジイもその他の神とは仲悪かっただろうが。

なんで、あっち側についたんだよ。」


「それに、先生の核を壊さないで封印しているのも気になります。先生の霊章の力でハンター達に魔力を集めさせて、強くさせたい理由はわかりますがリスクが大きいです。

それなら、時間をかけても魔力の高め方を教える方がいいような気がします。」


「そこなんだよな。

ジジイにしてはえらく、リスクの高い方を取ったと思う。黒田のような奴が出てくるのを狙っての事か。そこまでして俺達の計画を阻止したいかね。

全ての種に平等である、とか唱えた人が聞いて呆れるよ。」


遠い、遠い記憶。

霊神のジジイが全種族の首脳陣に対しての意見を述べる姿。

誰よりも正しくあろうとし、全ての人から尊敬の意を示された人がなぜ……。

なあ、クソジジイ……教えてくれよ。


疑問とその中に生まれる怒りが沸々と湧き出る。

だが、今は怒りの感情を芽生えさせていても仕方がない。

怒るのだって体力を使う。

めんどくさい行為でしかない。


「だがまあ、取り敢えず、会社は作ろうかね。

ルクリアの奴にばかり頼っていられないし。

まあ、顔が割れちまっている俺達の擬態を頼まなきゃいけないから仕事増えるかもしれないけどな。アイツ、キャバクラの仕事を気に入ってるから辞めそうにないし。

まあ、資金が多い事にはいいだろう。

忙しくなるな。

それと、イラの奴の気配がしたがアイツ起きたのか?」


「はい、僕を助けた後どこかに。」


「たく、勝手な行動をとるつもりだな。

まあ、アイツも馬鹿じゃないから下手な真似はしないし。

一つ賭けてみるのも面白いか……。」






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