第34話

「さっきの蹴りで死ぬわけないよね。

瓦礫の下敷きになってないで早く出てきなよ。魔力の防御もしっかり間に合ってたじゃない。僕にそういうのは聞かないと思ったほうがいい……。」


瓦礫の山がガラガラと崩れ落ちていく。

その中からエシーが体についた土埃を叩いて起き上がってきた。


「しっかり見てんじゃねぇよ。

たく、もう少し甘く見ててくれていた方がこっちとしては気が楽なんだけどな。」


やる時はやる。ペルビアと同じタイプか。

こういう性格の奴はいつどの時代でも強い事は変わらんらしい。

それに、魔法の王と呼ばれているだけあって六神系統の魔法のほとんどは使えると見てよさそうだ。

魔法もペルビアと似てやがって。

だが、霊章が使えない分ペルビアの方がまだ強いか?


「やだよ。だって君強いでしょ。

それに3人にかけた魔法についても興味あるし。アレ、どうやってやってるの?」


「さあな、感覚的にやってるもんだから俺にも分からん。そういう、お前だってその目でどうやって見てるか知らないだろ。」


「へぇー、そういうのわかるんだ。」


「俺の周りにはそういうよくわかっていない力を使う奴がいてな。

まあ、慣れってやつだよ。」


「興味あるね。その君の仲間の力。

ちゃっちゃと話してしまいなよ。

それと君達の目的も全部ね。」


「お断りだね。

俺は仲間を売らない主義でな。」


「嘘つけよ。表面やろう。」

全身に魔力を循環させた。

身体強化に電気魔法による神経系の強化。

相手はどんな魔法を使うのかわからない。

用心に越したことは無いだろう。

距離をとって牽制、様子を見る。


八つの魔力の塊を投げつける。

エシーは飛び上がるが魔力の塊は追撃を始める。


龍衝の蹴りに対して無傷、もしくは無傷に見せるように瞬時に回復されたか。

魔力量が多すぎて回復魔法を使用したのかがわからない。

防御力、もしくは回復速度を見る。

移動速度が速いのはわかっている。

アレだけでは捉えきれないか。


「そればかりに気を取られてていいの?」


エシーの前に回り込む。

背後には八つの魔力の塊。

前方には俺だ。

右手に魔力を集中させて、打ち込む。


「てめぇを無視するほどボケちゃいねな。」


片手で拳を受け止めようとする。


受け止めた後、背後の攻撃に僕をぶつけようとする腹が見え見えだ。

まあ、受け止められたらするといいよ。

遠慮なく全力で振り抜いた。


ボキッと手首が折れる音。

そして、次に顔面の骨が砕ける音。

完璧に顔面を捉えた拳と顔に飛散した血が付着する。


「後ろ、気をつけなよ。」


足裏から炎を放出させて、八龍殺がエシーに衝突する前に距離を取り、大気が悲鳴を上げるかのような音が響いた。

だが、そこで攻撃を辞めない。

爆炎に自ら飛び込みエシーの服を掴み上空10メートルの高さから地面に投げつける。


ダメージはあるな。


爆炎から引き摺り出した時にエシーの全身は確かに火傷をおい、手首は在らぬ方向を向いていて鼻も可笑しな方向に曲がっていた。

しかし、地面から這い出てこれば傷は一つも残っていない。

回復速度が桁違いに速い。


「手を抜きやがれってんだ!」


「抜くわけないじゃない。

常に攻撃してきてる相手にさ。」


「なんだ、気付いてんのか。」


「僕の目を甘く見ない方がいいよ。

この粒子みたいな魔力、君のでしょ。」


空気中に飛散している霧のように撒かれた魔力の粒子。

しかし、僕はその粒子を受け付けないよう自らの体を高密度の魔力で常に覆っている。


「3人の状態から見て、体内に入れると魔力と肉体の硬直するってところかな。」


「ご名答だ。……嫌な相手だ。」


「それで、君は攻撃してこないの?」


「タヌキが。お前が纏ってるその魔力。

俺の力を防ぐ用途以外にも触れたら相手を粉微塵にするきだろ。

爆炎の中つっきて来た時しっかり見てんだ。お前が掴んだ部分もなくなってるしよ。

俺本体を掴んでこないのは捕虜にするためとかだろう?」


「うん、ご名答。

君を捕まえて仲間の場所を吐き出させる。

今回の僕の目的はそれだ。

だから、とっとと掴まれよ。

仕事したくないだよ。四肢もくぞ。」


足裏の炎を消し、足元に圧縮した大気を一気に爆発させて加速し、エシーの懐に入る。

腹に目がけての一撃。

コイツレベルなら一発二発打ち込んだところで余程死にはしない。


拳が腹に減り込み貫通する。

衝撃でエシーは吹っ飛んでいった。


どうせ、風穴を開けた瞬間に超速で回復していく。


予想通り、穴は瞬時に塞がる。


回復速度といい、魔力の感じといいモンスターと戦っている気分だ。


「君達は人間に化けたモンスターか?」


「ボコボコに殴っている相手に質問するな……!」


質問する癖に喋る暇など与えないほど、拳を振るってくる。

一発一発が普通の奴になら必殺。

当たった場所は肉も骨も残らないと来た。

俺の回復速度が早いと見るやこれとはな。

しくじった。

ゆっくり、回復するべきだったか。


「戦闘中に考え事とは余裕だね!」


掌が俺の腹に触れた。

その箇所から赤い光と熱が放たれる。

そして、轟音を立てて爆発した。


下半身の感覚が消える。

耳は爆発音が響いている。

情報聞き出したい相手にする攻撃ではなかった。

爆炎が晴れると下半身は綺麗に無くなっていて、地面に倒れ込む。


「てめぇ。」

「早く回復しなよ。

出血しないように傷口は焼いておいたけど。

下半身ないと不便でしょ。」


「なら、ズボンをよこしてくれないか。

近くにズボンくらい売ってるだろ。」


「その間に逃げないならいいよ。」


「……逃げない。」

「はい、嘘つきにはあげまっせん!!」


「どちらにしろもらえないじゃない。」


「大人しく捕まったからあげるよ。

まあ、もう十分に暴れてめちゃくちゃだけどね。壊したの全部僕だけどさ。」


遠くでサイレンの音が響く。

どうやら、遊びはここまでらしい。


「悪い、時間だ。

君を国に引き渡す時間だ。

まあ、僕より弱いから逃げるチャンスが増えるからラッキーかもね。」


「そうかもな。

だが、その前にずらかるさ。」


何かを地面に投げつける。

高速道路の奴らが使用した煙の同じものが充満する。


……油断。

これやられると見えないから追跡とか無理なんだよね。


数分経つと煙がようやく晴れやはりそこには誰もいなかった。

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