第33話

先生がいる方向へ歩みを進める。

遠くからでも凄まじい戦いをしているという事がわかる。

強くはなったけど先生が戦っている奴には今でも相手にならない。

なら、俺の闘うは相手は必然的にもう1人。

ソイツは多くの人を殺した奴だ。


「邪魔はさせない!」

俺がビルを登る事になるかと思ったがアルが勘違いしてくれたのか、自分から降りてきた。一発目の攻撃と同じ、重力加速を乗せた超高速の一撃だ。


……受け止められる気がした。

しっかりとその攻撃が見えたからだろうか。


爆風が吹き荒れ、空気が瞬く。

だが、さっきよりも威力は低い。


手首を掴めた。周りを巻き込む衝撃を吸収することができた。それで、コイツの衝撃波が威力による物ではなく、魔法による衝撃だと言うことがわかる。


「どうして、たくさんの人を巻き込んだ?

黒田先生が狙いなら巻き込む必要はないはずだ。」


「……すいません。」

ただ、アルは一言謝るだけで理由は話さない。そこに少しの苛立ちが湧き出る。

手首から吸収できるだけの魔力を吸い上げ、体を自分の元へ引き込み、魔力を込めた一撃を顔面へ打ち抜く。

アルは吹っ飛び、ビルの壁に叩きつけられた。


「……!」

魔力を吸収された?

それに防御したのに、逆に攻撃してきた魔力を吸収しようとしたのに。

権能で押し負けた……。


「死んだ人間は、帰ってこないんだよ!!」


昔のゲートが破られた時の現場。

夏帆と2人でいた現場。

こいつらに殺された人達と死体を見て泣きじゃくる人達が頭を過ぎる。


コイツは捕まえる!

殺した人の家族に頭を下げさせてやる!


「……おお!!」

全力で振りかぶった攻撃。

しかし、攻撃は空を切りビルの壁面に突き刺さる。まだまだと避けたそばから追撃。

一発、二発……三発。

壁を砕く音が無惨にも響き渡る。


「剣は抜かないんですか?余裕ですね。」


風が吹いた。

アルは距離を詰めて、数十センチも離れた位置で何かを振るおうとする。


何をしている?

そう思っていたが本能が身を屈めさせる。

その瞬間、髪の毛の先が何本かが宙を舞い、地面に斬り込みのような痕が出現した。


見えない剣!

次が来る!


視線をアルに向け、二撃目。

不可視の剣でリーチがわからない。

なのに、剣の先に身を置いてしまった。

腹から血が噴き出す。


「……ッ!」


それに当たった場所から少し魔力を取られた。俺と同じ魔法か。


「剣を抜いてください。

僕は剣を抜きましたよ。」


アルは真っ直ぐな目で俺を捉える。

早く抜けと言わんばかりに刃を突きつける。

それで偉そうに仕方がないから抜いてやろうとか思わず、その目に気圧されて、恐怖を抱いて刀を抜いた。


「……--ふぅ。」


年齢もさほど変わらないだろう。

でも、直感的に俺よりも強い気がした。

それは単純に強さなのかはわからない。

だが、決定的に負けてはいけない部分で敗北しているとそんな気がしてならない。


しかし、そんな不安はこの場に置いていく。

大地を踏み切り、斬りかかる。

避けるかと思ったが不可視の剣で受け止められ、弾かれる。


「……ッ!」

防御できるのだからこちらも防御できると思ったが通り抜けてきた。

肩を掠めて刃が抜けていく。

剣先が刀身をすり抜けたと思った瞬間に受け流そうと体を捻って正解だった。

そして、不可視の剣は魔法だがかなりの魔力量。だから、アレを瞬時に吸収するのは無理。


「……おお!!」

捻った回転を利用して攻撃に移るも火花を散らして受け止められる。

そして、アルが攻撃に転ずると剣はすり抜ける。

自由自在に実体とそうでない時の切り替えができる。だから、アルは連続で刃を繰り出せる。弾かれる心配がないから。

だが、こちらはリーチがわからないから剣先にいてはならず、すり抜けるから防御をしていけない。このままでは防戦一報だ。


「……--ッ!!」

どうにかしてこの連撃を崩す。

どうにかして攻撃に転ずる。

それを行うにはなんのリスクも無しに移行するのは不可能だ。


右脇腹を刃が掠めて、振り抜いた瞬間。

大きく足を踏み出し、距離を詰めた。


この距離なら見えなくても関係ない!


振り抜いた刀身は右肩から左脇腹に抜けていく。しかし、コイツには回復魔法がある。

斬ったそばから瞬時に傷は癒えていく。


『外傷をつけられなくても確実に魔力は削れる。』


四谷のその言葉が頭を過ぎる。


畳み掛けるなら攻撃に転じた今!!


敵も防御から攻撃に移ろうと攻撃を弾き、かわすが勢いに任せて振り抜き続ける。

幾度となく散る火花と砕けるコンクリートの地面と壁。

そして、アルの身体を刀身が掠めれば俺の剣撃速度は加速する。


「……おおおおおお!!!」


「……くッ!」

隙がない!

魔力を吸収する量も、身体強化に変化する速度も段々速くなってる。

どこかで抜け出さないと!!


逃がさない!

ここで一気に--


「……!」


目の前が白く赤く、熱を持った爆炎に包まれる。極限まで集中していたせいか体がそれに反応するのが遅れ、防御体制が整わない。


「時間みたいですね。」


その隙をついてアルは爆風を巻き起こし、炎を散らして飛び去っていく。

俺は六つある車線の道路を跨いで逆の歩道にまで吹き飛ばされた。


次に目線を前に向けた時、アルの姿は跡形もなく消えていて、戦いの痕だけがその場に残されていた。

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