第29話

「黒田の多くの戦闘情報が欲しい。

すまないがお願いできるかな?」


「エシー、あんたね。

その子死んだらグーラに怒られるわよ。」


椅子に座っているルクリアが宙に浮かせている足をバタバタさせ、眉間に皺を寄せて睨みを効かせている。


「グーラの権能を持つ君なら少しは戦えるんじゃないかと思ってるんだけどね。」


「どうでしょうか……。

先生と同じ強さを比べているのでしたら期待には添えません。

ただ、先生の恩人のエシーさんに言わらたらお断りする訳にも行きませんので頑張ってみます。」


「やめときなさい。アル、あんた死ぬわよ。

グーラが怒っても知らないわよ。」


黒田に叶うやつは知る限りではエシーとペルビアくらいだと思う。

私の中でこの2人の強さ他の五人とは別格。

その次にグーラ。

3位の弟子を担ぎ上げて勝てる相手ではない。


「いえ、先生は僕の事で怒りませんよ。」


「そうなの?」

「はい!」


よくもそんなに元気よく返事をできる物だと思った。食べる事以外興味のないやつだと思っていたが弟子にそんな事を言わせる程だとは予想以上だ。


「でも、権能を教えたのはアイツでしょ?

その使い方もそれなり出来てるじゃない。」


「いえ、権能の扱い方は見よう見真似で覚えました。それに、ルクリアさんもご存知の通り権能は魂に刻まれた力。

肉体に刻まれる、六神の力とは違いますので意外とできる物ですよ。

ルクリアさんがその力を使えるようになったのは自然にですよね。」


「まあ、そうだけど。」

思い出してみても今使っても頭で考えて、この力を使った記憶はない。

確かにただ何となくで使っている。

試しにグーラのやつの形をした幻覚を作ってみてもやはり何となくだ。

頭の中でグーラの姿、よく食べるのに普通の体型してて黒い髪に黒いマント。

そのマントの裏には保存食。

頭の中で思い出すだけで形になる。


「いつ見てもすごいですね。

本人を目の前にしている気分です。」


「まあ、黒田にはあっさり見破られたけど。権能の力ではおそらく黒田には勝てないわよ。それはエシーもわかってるはずよね。」


「まあね。俺の権能でも勝てないよ。

霊章を全開にしてやっとだと思う。」


「なら、全開でやってこれば?」

そう言うとエシーはやれやれとした感じで肩をすくめて壁に持たれる。


「黒田に使っている間、俺は権能しか使えなくなるけどその間守ってくれるのか?

それに、イラが戦いたいと言っている。

彼の怒りを抑えてくれる……」


「あーー、はいはい。

わかったわよ。グダグダうるさいわね!」


お説教の時間に入りそうだったから途中で言葉を遮った。

普段は自堕落な癖にこういう時はウダウダと。うざいったらない。


「それに勿論俺も彼の手伝いをする。

他人任せは俺の主義に反するからね。」


「いつも寝てばかりのアンタが?」


「寝ているだけで誰にもお願いとかはしていないさ。でも、今回はお願いして引き受けてもらった。なら、その手伝いをするのは当たり前のことだ。」


「そ、頑張ってね。

じゃあ、私はの生活費を稼ぎに行ってくる。」


「すまないな。

そこは本当にすまん。

本当に助かっています。」


普段はうざい奴だがこういう時は素直で助かる。ありがとう、ごめんなさい、お願いしますが言えるだけの道徳はある奴だ。


「いいわよ。お人形遊びは好きだし。」


幻覚で作った人達を操って男達を弄べばそれなりに収入になる。

幻覚に実態を持たせる私の霊章は1人しか作れないが普通の人間に実態があると誤認させるのは容易い。


「それで、他の奴らには連絡は取れたの?」


「そうだね。リティアは相変わらず心とかいう奴に追われているみたいだし。

アディはゲートの中で引きこもり中。

ペルビアは世界一周旅行中みたいだよ。

この世界の科学で作られたものが凄くて大興奮中。ほら、写真。」


(これ凄くない!! )っと書かれたイルミネーションの写真が一枚。

ZEROの霊章を最も強く影響が出てしまったがためについ2年前に目覚めてからずっとこの調子だ。


「ペルビア、魔法の世界よりこっちの世界の方が楽しんでるわよ。」


「まあ、あの人は魔法極めてやること見失ってたからね。

まあ、こんな感じで黒田倒すかなんなりしてくれと頼んだが断られた。」


まるで子供だ。

水を得た魚と言えばいいのか。

元から自由な性格をしていたがここまでこればため息しか出ない。

ものすごく見ているだけでムカつく。


「ペルビアは何で生計を得てるのよ?」


「大道芸だそうだ。

持ち前の魔法を披露してるらしい。」


「馴染みまくってるじゃない!

目的忘れてんじゃないの!」


「いや、それはないよ。

ペルビアも魔法が使えなくなるのは困るからって旅をしながら色々してるみたい。」


そうはいうがこの楽しそうな写真を見たらとてもじゃないが信じられない。

ただ、本当に能天気に何も考えず遊んでいるようにしか見えなかった。


「まあ、そういう事だ。

じゃあ、僕たちもそろそろ行くよ。」


「はーい、なんか気が抜けちゃうわ。

まあ、私は気を抜くけどアンタは気を抜いちゃダメよ。本気でやってきなさい、アル。」


「行ってきます!ルクリアさん!」

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