第30話

ジュージューと肉の焼ける音。

パチパチと音を立てて、肉から油が滴り落ちる。


「米、おかわりするが霜崎と葵は?」


「私も〜!」

「頼む!」


「はいよ。」

タッチパネルで米大盛りを3つ。

それとホルモンとネギタンを注文。


「あ、傑僕も米おかわり。」

「早く言ってくださいよ。」

もう一度米のページに飛んで4つに変更する。


「他にいるものはありますか?

飲み物、肉足りないものは?」


「あ、私烏龍茶。」

「俺オレンジジュース。」

「僕は黒烏龍茶で。」


注文した物が続々と運ばれてくる。

全員、食べるのに夢中なのか行儀がいいのか黙々と食べ続ける。

周りは賑やかなのにこの席は静かでいい。


「あのさ。」

しかし、その静寂を社長が破る。

しかも、口に食べ物を入れた状態で。


「もし、魔力がなくなったら君達ならどうする?」


「なんですか、急に?」


「いいから、いいから。

だって、今君達の生計を作っているのは魔力のおかげでしょ。

もし、この世界から魔力が消えたらどうするのかなって興味本位だよ。」


トングで肉をひっくり返す。

霜崎と葵の目線は肉と米に向いている。

雰囲気的に俺から答える感じか。


「俺は今すぐに無くなるなら大学行きます。

学部は工学系。就職先は車関係を目指します。」


「随分、ハッキリしてるじゃない。」

口をモグモグさせた状態で葵がしゃべる。

お前もかと思ったが社長がこうなら社員もこうだと納得する。


「黒田社長に見つかるまでは自分の将来は安定した道がいいって決めてたからな。」


「そ」っと短く返事すると食べ物を飲み込む。


「まあ、傑らしいわね。

私は格闘技選手とか目指すかも。

傑みたいに勉強はできる方じゃないし。

格闘技選手ならハンターの経験活かせそうだしね。霜崎は何になるのよ。」


「……そうだな。」

考えても見なかった。

小さい頃にハンターに命を助けられてからずっとハンターになりたかったから。


「誰かの命を救う仕事をしたい。

だから自衛隊、警察官とかハンターの経験を活かせて誰かの命を救える道を目指すかな。

ものすごく大変でキツそうだけどさ。」


自衛隊の訓練をテレビで見たことあるが今俺がしているトレーニングの比ではない。

そして、警察官の厳しさも割と自由なハンターとはまるで違う。


「へぇ、意外ね。

もっと、適当な事言うと思ってた。」


「はは、ひどいな。」


「それで、なんでこんな質問したんですか?」


「う〜んとね。僕にそう聞いてきた人がいたからかな。興味深い質問だったから。」


「その時社長はなんて答えたんですか?」


「そんな、面白い回答はしてないよ。

残った金で遊び倒す。そう言った。」


「一番軽薄な言葉が出たわね。」


「だってそうでしょ。

個人的にA級にS級で稼いだお金は腐るほどある。頭抱えて仕事するなんてごめんだね。

会社を建てた理由も誰かの下で働くのは面倒臭いと思ったからだし、上に立ったら誰かは着いてきてくれるだろうと思う強さ、魔力があったから。」


正直、それを聞いて見据えている先が想像以上に薄いと思った。

行き当たりばったりでなんとかなる。

社長の言葉と声音からそう感じたが強さがあってこそのその自信が少し羨ましかった。


「それで、この後に続きがあってね。

目の前に魔力を永遠に失わない方法がある。

しかし、魔力を永遠に失わない道を選べば大勢の人が死ぬ。

でも、魔力を得る事で救われる種もいる。

その時、貴方はどうしますかって。」


そこで動かして乾いてしまった口を潤そうとオレンジジュースを口に含む。

ぶはっと勢いよく一口で飲み切った。


「君達はどちらを選ぶ?

まあ、僕は魔力が無くなる方を選んだけど。

だってさ、人間生きてるだけで何千何万種の生物を絶滅させたんだよ。

それが今更大勢いなくなったところでって思って僕はそう答えちゃったんだけど。」


「私もそこは社長に賛成ね。

正直、人間以外の生物に興味ないし。

まあ、可愛い犬とか猫とか別だけど。

私達の税金で殺処分しているって聞いた時はこの国重鎮の人達ぶっ殺してやるって思ったけどさ。あのクソ老人ども。」


「あ、それ僕も賛成!

それでさ、聞いてよ!

アイツら普段は税金だなんだと言ってうるさいんだけど自分の住んでいる場所にゲートが発生したら、今度は助けろってうるさいんだよ。都合いいよね。

死ねばいいのにって思ったけどその地域に住んでる人達もいるからさ助けないわけにもいかなくてさ。」


「でも、その事件で議員の家とか財産を人質にして無理矢理税金下げてたじゃないですか。」


「お、よく知ってるね、傑。

でもね、そう言う事は言わないの。

見て見ぬふりをしなさい!

せっかく報道陣のカメラぶっ壊して脅して黙らせたのに。内部通告は勘弁。」


「そう言うなら知れ渡っている顔で大声で問題発言を連発しないでください。」


大きな大広間にいくつもテーブル席が並べられている店だ。

聞き耳を立てればいくら周りがうるさくても隣の席の話くらいは聞こえる。

なのに、変装も何もなく大声で問題になりそうなことを話す社長。


「危機感を持ってください。」


「ごめん、ごめん。

次からは気をつけるよ。

まあ、話はこの辺なして食べよ。

明日からも頑張らなくちゃいけないからね。」



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