第27話

「ごめんなさい。社長はいつもどおり自室で寝ていると思ったから……。」


「いえいえ、ここまでしていただき本当にありがとうございます。」


黒田社長は仕事に出ていたようでゲートから急いで飛び出してきたが社長には会えなかった。

皆んなと同じジャケットが少し恋しいが仕方がない。


「それにしても、そのジャケット何でできているんですか?

激しい戦闘しても破けないですし。」


B級以上には魔法を使うモンスターもいる。

しかし、その魔法にも耐えるジャケット。

一体何でできているのか気になって仕方がない。


「これはA級ダンジョンのモンスターの革を特殊な加工をして、特殊な繊維で編まれているの。頑丈で魔力も通しにくい鎧よりも軽い、この会社の特注品よ。

一着、噂では数百、数千万とするらしいがどうせ社長の金だと皆んな二、三着は持っているわ。最近ではオシャレでワンポイント追加できたりするらしいわよ。」


「す、数千万ですか……。」

私はそんな高価な物を欲していたのか。


「社長のお金よ。タダよ。」


「でも、社長の……」

「タダよ。」


少なからずこの会社の人達は黒田社長に恨み辛みを抱えている。

北川さんの態度も他のハンターの方々の話を聞いても『社長はクズ』と皆声を合わせて言う。


「そうですね。私のお金じゃないからタダですよね。あー、早く私も着てみたいです。」


ただ、私は一番後ろで守られているからいいけど前線で戦っている霜崎さんにはもう届いてるのかな?

まあ、さすがに届いてるか。


「ええ、これを着ているだけで安心感が違うから早く作ってもらわないと。

ところでAチームに入れられる時社長から何かもらってなかったかしら?」


「はい、私はジャケットの代わりに社長からこの首飾りをもらいました。」


青い光を放つ石が埋め込まれいるペンダント。簡単に切れないように紐ではなく小さな鎖で造られている。


「回復魔法を付与してあるから万が一にも死ぬことないからAチームで頑張れって。」


「あの、社長らしいわね。」

無理を他人に押し付けるところがまさにそう。常にあの人はギリギリを求める。

正直ムカついている。

『僕いれば皆んな死なないよね。』とヘラヘラした顔で言う姿が物凄くムカつく。


「日和さんはD級だったわよね?

本来ならA級ダンジョンに貴方はいてはいけない強さ。……でもね。

大変不謹慎かもしれないのだけれど貴方が私達のチームに入ってくれてとても嬉しく思う。貴方の存在が私達のチームを完成させてくれたのだから。」


「いえいえ、そんな事は……。」


「本当よ。普通の回復魔法では私達の回復は追いつかないもの。私は血を白菊君は骨を小豆畑君は骨も肉も擦り減らしちゃうから。

貴方の特別な回復魔法のおかげよ。」


普通の回復魔法は肉体の治癒の活性化。

しかし、私達の魔法は外傷ではなく内側の損傷、疲弊、損失。

私で言えば血の量と魔力量が強さに直結する。

でも、彼女の魔法は魔力を治癒の活性化ではなく失った物に変換する特異な回復魔法だ。


「いえ、それなら私の魔法がそういう物だと教えてくれた社長が凄いです。

一眼見て解っちゃったんですから。」


あの日のことは覚えている。

霜崎さんがこの会社にスカウトされた直後に黒田社長は私達のレイドを見に来ていた。


『へぇ、君。なかなか変わった魔法を使うね。……おもしろい。』


その時に青い瞳を向けられ、そう声をかけてもらいここにいる。

それに、私はただ守られているだけだ。

後ろで隠れてビクビクして。

……情けないったらない。


「一眼見てわかるのはあの人の魔法よ。

……私もあの目で見つけられて捕まったんだから。」


「捕まった?」

どういうことだろうと聞き返すと月見さんの顔は青ざめて鳥肌が立ち、眉間に皺がよる。

手は拳を握り、ギリギリと皮膚が軋む音が聞こえてきた。


「ええ、そうよ。

ストーカーで訴えたのに。」


「訴えたんですか。」


「親を買収して。」


「買収したんですか。」


「誓約書を強制的に書かされて。

今思い出しても頭が痛いわ。ええ、とても。

誓約書の最後に貴方は快諾した事に同意しますとか書かれてて。それから……」


ワナワナと怒りに震え、黒いオーラが沸き立つのが見える。

ここまで、怒っている月見さんは見たことがなかった。

ゲート内でも基本クールでカッコいいと思っていたが感情をここまで表に出すこともあるのだなと。


「私は楽しくフラフラとハンターできればよかったのに……!!」


「はは、その辺にして何か食べに行きませんか?疲れましたし、お腹空きませんか?」


この会社の中でここまで社長の愚痴を大声で言われては社長の耳にいつ届いてしまうかわからない。

早く別の話題に切り替えねばと思った。

そう聞くと月見さんは我に返ってハッとする。


「ご、ごめんなさい。

つい愚痴が止まらなくって。

ええ、お腹空いたし食べに行きましょう。

私はししゃものフライが食べたいわ。」


「どこへでも行きますよ。」


「なら、スーパーに寄りましょう。

アーモンドフィッシュを切らせてるの。

それとチョコも。」



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