第25話

勝つ為の条件は揃っている。

霜崎の魔力吸収による一時的なボスの能力低下。葵の付与型魔法。

そして、俺の鉱物操作。


作戦は伝えた。

できるかどうかはわからない。

2人にはそれぞれやるべきことだけを伝えた。

自分のやる事のみを伝えれば周りのやる事に対して不安にさせる事もない。

後は俺だけだ。

失敗すれば2人に死の恐怖を植え付けることになる。

失敗は許されない。


空を舞うボスは両翼を羽ばたかせている。

しかし、もうあの両翼を落とす必要はない。

集中しろ。

魔力を全て集めろ。


「霜崎、葵!」

作戦の合図を送り2人は走り始める。


「霜崎ヘマすんなよ!」

「おう!」

四谷からの指示は急所を狙って攻撃する事。

破壊できなくてもいいから刃を届かせる事が俺に対する指示だった。

ボスの心臓の位置は人間と同じ中央よりやや右に位置する部分にある。

しかし、ボスは上空に飛び上がっている。

ならば、どうやって届かせるのか。

その答えはすぐに現象として起きた。

ボスもそれを予想できなかったのだろう。

動きが一瞬止まった。


「はあぁぁああ!!!」

四谷の咆哮と共に地面が重低音の音を響かせて迫り上がる。

勢いよく迫ってくる地面に対応できずにボスは地面に叩きつけられた。

そして、その地面はボスに通じる道になる。


これで一瞬だが動きを止めた。

一度翼の動きを止めれば浮遊するまでにコンマ数秒の時間がいるはずだ。

彼奴の独壇場に上がらせない為にもここで決めなければならない。

大地を上げるのに相当魔力を消費した。

しかしまだ、俺にはやる事がある。

頼むぞ2人とも!


全速力で突っ込む。

わずかにできたボスの隙。

ここを逃せば後はない。


ドンッ!!

地面が割砕ける音が響き、体は風邪に引き裂かれそうなほどに加速した。

しかし、ボスは俺の事を捉えている。

それに既に立ち上がり臨戦体制だ。

飛び立つ隙を与えたくない。

だが、左右の爪での攻撃には気をつけなくてはならない。

確実に全力の攻撃を当てるにはこの攻撃を弾く必要がある。


魔力配分を間違えるな。

武器の魔力が弱ければ粉々にされる。

腕が弱ければ折られるし、脚の力が弱ければ吹き飛ばされる。


「ふぅ……ーー。」

死ぬか生きるかの一瞬の瀬戸際とはなんと長い時間なのだろうか。

息を吐き、圧縮されていく時間の中で何度も魔力の配分を繰り返してはダメだと否定し、やり直す。

武器強度不足。

脚、魔力不足。

腕、魔力不足。


僅かな0.1秒という時間すらも惜しい。

ボスが腕を振り上げる。

……諦めるな。焦るな。見つけだせる。


自らの肉体でこの一瞬で使う部位を頭の中で整理する。

必要ない所は切り落とす。

必要のある所に全て回せ。

致命傷を受ける事は考えるな。

確実に弾く!!


「うおっ!!」


カンッ!

2回、そんな槌が鋼を叩いたような音が鳴り響いた。

銀色と青い光の軌跡が八の字を描くようにして振るわれる。

それを追うようにオレンジ色の光が瞬く。

火花が眩しく目の前を照らし、視野は狙うべき一点を見据えている。


……いける!


そう思った時には刃を振り抜いていた。

鈍く湿った音が鳴り響く。

銀と青色。

そして、赤の軌跡は弧を描いた。

今度は手に痺れるような衝撃はなかった。

ただ、滑るように3度目の刃は抜けていく。


……今だ!

それを見て俺は大地を固める為に込めていた魔力を解く。巨大な生き物を乗せていた岩の塊が崩れ落ちていく。

翼を広げていない今の状況からすぐに体制を立て直すのは無理だろう。


「よくやった、霜崎。」

後は私達の仕事だ。

霜崎の斬った直後の場所は魔力が薄く、とても貧弱な部位になる。

この一瞬の勝負所を逃せば恥もいい所だ。

これで終わらせる。

後輩に私の全力を見せる。

私の魔法は何も回復魔法だけを込められるわけじゃない。

同じように武器強化魔法を込められる。

そして、人間が一回で出せるマックス魔力放出量には限りがある。

普通は武器強化と身体強化で二分する。

だが、私の魔法ならどちらも全力を込められる。

武器に速度を出させるなら投擲が最適だ。

体を持っていくなんて時間の無駄。

弱点が目の前にあるなら速攻で決める。


……全魔力装填。

武器に私の全力を込める。

そしたら、後はただ……


「うおおぉぉらあぁぁぁあ!!」


全力で投げ切ればいい。

線にも見えるほどに加速された薙刀は心臓部に深々と突き刺さる。

ボスが仰反るほどの一撃だ。

しかし、それだけでは終わらない。

強化魔法の応用。

武器に込めた魔力と傑との間にパスを繋げる。


「やっちまえ!」


「ああ!」

薙刀の刀身も鉄、鉱物だ。

それが心臓に体の内側に深々と突き刺さっている。

後はただ、繋がった魔力のパスを通して魔法を使ってその鉄を内側から弾き飛ばす。


ボコっと胸部が膨らんだ。

内臓はズタズタ、心臓は潰した。

ボスは僅かな断末魔を上げて回復させる事なく地面へと落ちていく。


「……やったか。」

数秒待ったが再び動く事はなかった。








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