第24話

大きな黒い翼を羽ばたかせて空を飛んでいる大きな鳥人間。

上空を飛んでいるから正確な大きさはわからないが前対峙した狼人間よりかは大きい5メートルはありそうに見えた。

ボスだが取り巻きは存在せずただ悠々と空を飛ぶ鳥人間。


「あのまま、飛んでてくれないかしらね。

人間襲わずゲートから飛び出てこずに。」


「それがやるかどうかわからないから狩るんだろうが。」


「ねぇねぇ、アイツ鶏肉さ!

うまいかしら?美味しいといいな!」


「人の話を聞け。」


「聞いてるわよ。

狩らなきゃいけないこと聞いたんだから次は美味しいか美味しくないかの話になるでしょ普通。後羽毛が金になるかどうか。」


そうはいうが頭が鳥なだけど体つきは体毛に覆われてはいるがパッと見人間だ。

羽毛は枕とかに入っている白いモノとは明らかに違う汚そうな黒。


「まあ、それも狩って店に持ってけばわかるだろ。」

「それもそうね。」


2人はそれぞれの武器を構える。

俺も腰から刀を抜き放った。


「作戦はさっきの通りに。

死にそう、魔力が切れそうなら直ぐに逃げろ。絶対に死ぬな。」

「ラジャー!」

「おう!」


四谷が弦を弾き始める。

矢が放たれた時、開戦の合図だ。

全身に魔力を循環させる。

どんな攻撃が来ても良いように。

息を整える。

目を見開き、視野を広げた。


「いくぞ!」

その言葉とともに矢が放たれた。

真っ直ぐに羽めがけて飛来する矢だがボスは旋回して、それを避ける。


あまい!

俺の魔法は鉱物を操る能力だ。

そして、あの矢は俺の作り出した物。

つまりは放った後でもある程度のコントロールはできる!


矢は曲がり旋回したボスを追い胸の心臓部に突き刺さる。

しかし、やはり急所となる部分は硬く表皮を突くだけで対してダメージを与えられていないのが感触でわかる。


「一瞬でも気を抜くなよ、霜崎!」


「はい!」

初のC級ゲートのボス戦で気を抜いたら俺なんか一瞬で死んでしまう事は一番わかっている。今の俺の全力を出し切っても届くかわからない領域なのだから。


「……グァァアアア!!!」

ボスは咆哮を上げて上空から凄まじい速度で降下し、右腕を振りかざす。

鋭い爪が夜光石に当てられて鈍く光りを反射している。


真っ向から受ければ怪我は避けられない。

3人は横に飛び、攻撃をかわす。


コンマ数秒前まで俺達の立っていた岩床は粉々に砕かれていく。

岩床が次々と捲れ上がっていく様子は恐怖の対象でしかないが怖がっている暇などない。

降りてきている今がチャンスだからだ。

狙うのは翼だ。

飛べなくすればかなり戦いやすくなる。

しかし、ボスもそれはわかっているのか魔力を翼に集めるのを感じた。

だが、きっと俺の魔法なら斬れると魔力で刀を強化して振るった。


斬れた!でも浅い!

ボスの翼から血が飛び散る。

翼にダメージを与えた。

しかし、手応えは弱く少し斬れただけだ。

魔力の硬化とは別に羽毛が深い。


バサッと空気を叩き暴風が吹き荒れるとボスは上空に再び飛び上がるがそこに2本の矢が飛んでいく。


ボスは両翼で風を起こし2本の矢を吹き飛ばそうとしたのだろう。

しかし、無駄だ。

俺の矢はそんな風程度では軌道は変えられない。


2本の矢は正確に両翼を捉えたがそれで与えられるダメージなどたかが知れている。

だがそれも普通の弓使いならだ。


「気を抜いてんじゃねぇよ。」

上空に飛び上がって安心したのか翼の魔力量が減少したのを感じた。

俺は今だと言わんばかりに翼に刺さっている矢に推進力を与えた。

胸に刺さっている矢は動かせないが魔力の守りが弱った翼には矢は深々と刺さっていく。

そして、体内で奥深く刺さった刃がどうなるか……。


「葵、霜崎、落とすぞ。」

体内で幾千もの針となって矢は翼の内側から弾け飛ぶ。

空中で悲鳴を上げてボスが落ちて来る。

無抵抗に堕ちてくる。

首を狙うため2人が駆け寄っていく。


……おかしいと思った。

ボスが無抵抗に堕ちすぎていて。

おかげでそれが逆に危険だと気づけた。


「2人とも防御だ!!」


ズリュッと湿ったような音が聴覚を震わす。

ボスは空中で体制を立て直し鉤爪を立てて、振るわれた。


「……ッ!」

衝撃音が走った。

2人は吹き飛ばされ、地を転がる。


「大丈夫か!?」

「……大丈夫。」

四谷の声でギリギリ反応できた。

威力を受け流すために足の魔力を切って、モロにくらう上半身に全魔力を集中させた。

四谷が声がをかけてくれなかったら今頃真っ二つになっているところだった。

それにダメージを受けて直ぐに回復が始まって痛みは既にほとんどない。


「いってぇな!!

やられたフリしやがってあの野郎!!」


「回復した……。」

四谷にやられた翼は元に戻っていた。


「自己再生の強化か。

C級以上から稀に見るボスの特徴だ。

でも、外傷をつけられなくても確実に魔力は削れる。」


「魔力切れを待つほどの余裕はねぇぞ!

こっちが先に切れるわ!」

それにボスも作戦が決まるのを待ってはくれない。ダメージを受けたと思って畳み掛けてくる。

なんとか攻撃を避けるがその度に床や壁が粉々に砕けていく。

回復させられる量にも限界がある。

やられるのは時間の問題だ。

「うぜぇ!」


ボスの頭上に薙刀を振り下ろす。

鐘を叩いたかのような音が響くが傷は瞬時に回復する。


……効果なしかよ!


どうする!?

どんなに回復力が高くても一撃で急所を破壊できれば倒せるが一撃の威力がこの中で一番高いはずの霜崎だが、それもチャージできたらの話だ。

今感じる魔力はC級にギリギリ届くかどうか。

一撃で倒せる程じゃない。

それに霜崎のチャージを待つほどの余裕はない。

今手元にある戦力で最大限の一撃。


『傑さ、そろそろ自分で決めた限界を越える時なんじゃないの?君そのままだと一生、心のところに行けないけど。』


前に黒田社長に言われた言葉だ。


『危機的状況で他人が限界を超えてくれるのを期待するのは時間の無駄。

越えるならやっぱり自分でしょ。

そっちの方が楽しいよ。

小さい物を作る速さは十分だ。

なら、次はもっと大きい物を早く作れるようになったらいいんじゃないかな?

方法としては血反吐吐くくらいに魔力を……』


「振り絞れってんだろ!」

ここを乗り切る為の作戦は俺が限界を理想に至れば成功するはずだ。

絶対にやり切る、やり切ってみせる。


「葵、霜崎!作戦を伝える!」





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