第23話

「作戦会議を始める。」

「うぃーす。」

なんとも間の抜けた返事をして、手に持っていた水を飲み干す。


「2人とも魔力量はどれくらい残ってる?」

「私は回復付与が1、2回できるくらいね。

ごめん、思った以上に消耗した。」


本来ならC、D級が10人で挑むくらいの難易度を思った以上に消耗しただけで済んでいる事自体が凄かった。

2人の戦闘経験はかなりのもので倒した数よりも感じている疲労が少ない。

それだけ、2人に頼った戦いをしてしまっている自分が情けなかった。


「俺はまだまだいける。」

だから、ボス戦では役に立ちたい。

それに俺は魔力を吸収できる。

吸収した魔力を使っていたから魔力消費は新垣と四谷より抑えられてはいた。

でも、いつもならボスに辿り着く頃には魔力チャージはかなりできているはずなのに今持っている魔力は純粋に俺の魔力のみだ。

2人に助けられていたのに溜められる余裕がなかった。


「余裕がある分2人よりもっと頑張るよ。」

2人に助けられた分はボス戦で取り返したい。

今度は俺が2人の助けになりたかった。


「なら、霜崎を中心に作戦を立てる。

だが、素の強さは新垣よりも弱いから無理はするな。」


「わかった。」


「傑さ、そこは頑張れだけでいいんだよ。

無理するなとか霜崎のやる気を削ぐな!」


「すまん。」

四谷は片手を挙げて謝りサラッと流す。

勢いよく立ち上がった新垣はそれを見てムスッとしてそっぽを向くが無視して四谷は作戦決めを続ける。


「前衛は蒼と霜崎。

後衛は俺でボスの翼を狙って撃ち落とすから落ちてきた所とボスが攻撃してきた時のカウンターを狙って攻撃しろ。

だが、今回のゲートはかなりの危険が伴う。やばいと思ったらすぐに逃げろ。

退いて、黒田社長を叩き起こしにいく。」


「叩き起こしにいくのはいいけどあの人はきっと絶対に助けてくれないわよ。適当に回復させていってらっしゃいって言うぞ。

本気であの社長を働かせたいなら死ぬギリギリまで戦ったほうが早いんじゃないの?」


「確かにあの人がいれば死なないがお前らが死にかける姿は見たくない。」


「私的には回復されてまた死地に投げられて痛い思いするほうが嫌なんだけど。」


それを聞いて黒田社長が何度も俺達の事を死地に投げる事を想像した。

純粋に鬼畜でブラックで鳥肌が立つ。


「あの、黒田先生そんな風に社員を何度も死地に送り込むような事するの?」

「「する。」」


「えぇ……。」

2人の即答具合から間違いないのだろう。

死なないが死ぬ程痛い思いを何度もする。

それなら、俺は一度死にかけて黒田先生が倒してくれる方がいいのではと思ったが命の危険に近づくのは黒田先生がボスを倒す為に動き出した時だ。

逃げ帰る元気を残すという意味では死ぬほど痛い思いをしなくていいかもしれないという事だからどちらがよいのだろうか。


「今回は俺が班長だ。

動けなくなる前に逃げろ。

これだけは俺の指示には従え。」


四谷が始めて俺の指示に従えと命令をした。

その声音は力強く目はとても恐ろしかった。


「こういう時だけ班長きどり?」

「なんか文句あるのか?」

「別になんでもないわよ。」


肌がヒリつき、息が苦しくなる。

ここに来るまでこんな悪い空気になる事はなかった。お互いに支え合ういい2人だと思ったがここにきて始めて争うとまでいかなくともピリついた空気を醸し出す。


「ごめん。ちょっとからかった。」

「気にしてねぇよ。」


しかし、2人ともすぐにいつもの空気感に戻し、細かなところの作戦を決め始める。


***


そろそろ、ボス戦か。

傑と葵はそれなりに魔力を消費している。


ゲートの外からでもこの魔眼を持っていれば3人の状況がわかる。

そして、奥にいるボスの状況も。

このボスの強さは今の3人なら恐らく負ける。

もし、本気でやばくなれば駆けつけるがそうじゃない限りは僕は駆けつける気は毛程もなかった。

それは何故か?

3人に成長してほしいからだ。

今回、晶の成長を見る為でもあるが傑と葵は成長の限界を迎えている。

だから、一皮剥ける機会を与える必要があった。

2人の強さは技術云々で強くなる領域は超えている。後は戦闘経験を肉体を魔力を戦で鍛えていかなければならない。

でないと、2人の望みの心の所には向かわせてあげる許可を出す事ができない。

何故なら、心がおっている奴と似たような奴らが動き出していることがわかったから。

今2人を心の所に向かわせればたちまち死んでしまう。

2人を死なせたくはない。

心を鬼にしても2人に今以上の力を身につけてもらわなければ困る。


「さあ、成長の時だよ。傑、葵。」

何も今回一度で成長してくれる事を願っていない。

今回が成長の限界を破るきっかけになってくれればそれでいい。


まあ、純粋に3人が強大な敵に立ち向かっていく姿を見守って、成長していく姿が血湧き肉躍って心がワクワクするのが堪らなくいいという事は否定はしないけど。


「頑張れ、傑、葵、晶。」



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